「私の背中を見なさい」は誤解がある

意外なことに上田も宮間も「澤は周囲を説得しながらチームを引っ張るタイプ」ではなく「自然に振る舞うキャプテン」だという。

「苦しかったら私の背中を見なさい」という澤の言葉が有名になったが、それは誤解がある、と宮間は少々不満げだ。

ドイツW杯でMVPを取った澤穂希選手。リーダーとしてチームをまとめた。(AFLO=写真)

ドイツW杯でMVPを取った澤穂希選手。リーダーとしてチームをまとめた。(AFLO=写真)

「『見なさい』という言葉は正確ではなく、あとから尾ひれがついたものです。北京オリンピックのとき、上の方々から“ひとこと挨拶”という場面で、ほとんどの人が長い話をしましたが、澤さんだけは短く『苦しかったら私の背中を見て』と言ってくれました。それは『大丈夫だから、私もいるし』という、激励の意味が込められたものでした。『見なさい』だと、澤さんが女王様みたいな感じで、実際のイメージとは離れてしまって、すごく嫌なんです」

卓越した実力を持った選手が、長年の実績とともにカリスマ性を帯びると、自然に振る舞っても、チームに勇気を与えることができる。理想のリーダーとしての一つの形かもしれない。

世界の頂点に立ったなでしこには、各階層で優れたリーダーがいた。長期計画のリーダーである上田、チームリーダーの佐々木、そして選手たちのリーダー澤。そして、それぞれのリーダーたちの意思統一が図れていた。

宮間は上田について、こう語る。

「上田さんと佐々木監督は、いつもコミュニケーションをとっていますし、バランスは絶妙です。上田さんは協会で偉い立場の人なのに練習に来てボール拾いもやってくれる。それを見たら半端なプレーはできません。私は上田さんに自分のプレーに関して意見を求めることもありますが、上田さんは私たちの目線で的確にアドバイスしてくれます。そのアドバイスが佐々木監督の指示とずれてしまうこともありません」

なでしこジャパンはチームの世代間ギャップにも、うまく対応している。32歳の澤キャプテンに、26歳の次世代エースの宮間、さらには20歳のセンターバック熊谷紗希、18歳の新鋭・岩渕真奈がバラバラになることなく闘っていた。若い世代から一貫した指導で、選手を育成、融合してきた結果でもあったのだ。

ワールドカップ終了後の記者会見では、「宮間選手に助けてもらった」と澤が感謝の言葉を口にしていたが、宮間は、照れる様子もなく、こんなふうに応じるのだ。