官僚の仕事は「政策を作ること」
3.官僚というのは何をしているのか
ブラックな労働環境で、官僚の離職が増え、優秀な職員が集まらなくても、自分には関係ない、民間に優秀な人が集まればよいと思う方もいるかもしれない。
そもそも、官僚というのは何をしているのだろうか。
官僚の仕事は一言でいうと「政策を作る」ことである。
では、政策というのは何だろうか。
20年近く、政策をつくり続けてきた自分なりの答えは「政府独自のリソースを使って、人の行動を変え、社会課題を解決する」ということだ。
人の行動を変え、社会課題を解決することは、民間でもいくらでもすることができる。例えば、安全性の高い自動車を開発して事故を減らす、今まで治らなかった病気の薬を開発するなど、社会に貢献する企業活動はいくらでもある。
ただ、政府が持っているリソース(手段)が、民間企業と大きく違う。代表的なものをあげてみたい。
官僚には高い倫理観と能力が必要だ
一番強い手段は、人の行動を強制的に変える法律の規制だ。これは、最終的には国会に決定権があるが、9割の法律は実務を理解した官僚が立案している。例えば、道路交通法という交通ルールを定めた法律がある。自分自身がいかに気をつけていても、無謀な運転をする車が走り回っていたら、いつ事故に遭うか分からない。だから、全員にルールを守ってもらう必要があるし、そのために違反したら罰則もある。
予算という手段も、民間と大きく異なる。ビジネスの世界では、サービスや製品を受け取る人が選んでお金を払うが、それでは全員に必要なサービスが行き渡らないので、税金や社会保険料として納めてらったお金を使って、全員に必要なサービスを提供するのが役所の特徴だ。例えば、医者にかかった時に私たちは実際の費用の3割しか払っていないし、大きな病気で医療費が高額になっても一定額以上はかからない仕組みになっている。残りは所得に応じて納めた保険料や税金から支払われている。こうした仕組みがなければ、お金持ちしか医療が受けられなくなるからだ。
いずれも、民間と違うのは、全員が恩恵を受ける代わりに、その政策が好きでない人も法律のルールに従わないといけないし、お金を負担しなければならないことだ。
言ってみれば、一つの商品を全国民に強制的に押し売りしているような商売なのだ。だから、いい加減な商品を出されてはみんなが困るし、あらゆる人からの批判も受け止めないといけない。作っている人には高い倫理観と能力が求められるし、実態をよく理解して、色んな人の意見を聞きながら作ってほしい。いろいろな意見がある中で、話をまとめていく調整能力や中身を分かりやすく説明する能力も必要だ。
専門分野の知識だけでなく、社会のあらゆる問題にも関心を持っている必要があるし、過去や未来、海外といった視点も重要だ。