蝗害(バッタ類の大量発生による災害)や台風増加などの異常事態は温暖化が原因なのか。早稲田大学の池田清彦名誉教授は「温暖化のせいとはいえない。地球の長い歴史を振り返れば、過去にもそのようなことは起こっている」という――。
※本稿は、池田清彦『環境問題の嘘 令和版』(MdN新書)の一部を再編集したものです。
バッタが大発生し、ソマリア政府は「国家非常事態宣言」を発表した
今年(二〇二〇年)一月に、アフリカのソマリアでサバクトビバッタが大発生した。「サバクトビバッタの大群が異常なほど大規模で、膨大な量の穀物や飼料を食べ尽くしている」、そのため、「人々とその家畜の食料源が危険にさらされている」と報じられ、ソマリア政府は二月二日に「国家非常事態宣言」を発表した。
こういう異常事態が発生すると、すわ、温暖化の影響か、とばかりに短絡反応をする一群の人々がいる。なんでも温暖化が原因だ、と思い込む困った人たちだ。
サバクトビバッタ、トノサマバッタなど一〇種近くのバッタは、幼生密度が高いと、体が黒くスレンダーになり、翅が長く、後脚が短くなり、飛ぶのに適した「群生相」と呼ばれる体形になる。いわゆる飛蝗である。幼生密度が低い時は「孤独相」と呼ばれる体形に成長するが、この二タイプは体形ばかりでなく、行動や食性も異なる。遺伝子に違いはないので、環境要因によって体形が変わる、表現型可塑性の一種である。
ソマリア近辺では大雨が続き、飛蝗の発生しやすい条件が作られたようだ。草丈が短い草地に好んで産卵するため、大雨が降って普段は半砂漠のようなところが、草地化したり干ばつが続いて川が干上がり、川底が草地化したり、大火の後、焼け野原が草地化したりすると、局地的に好ましい産卵場所が出現する。成虫が蝟集してきて交尾産卵し、幼生密度が高くなり、飛蝗が発生するわけだ。