言葉が通じない中、1時間以上空港内をさまよう
本来、国際空港には英語が堪能なスタッフがいるはずだ。ましてや浦東空港は中国の主要ハブ空港の1つである。だが平田さんによると空港職員から英語が発せられることはなかったという。
「全部中国語です。防護服を着ていたのではっきりとはわかりませんが、空港のスタッフではなく、コロナ対策のために動員された検疫関係や公安の人だったのかもしれません。さらに空港は、検疫のためにパーテーションで区切られていて迷路のようになっていたので、余計に迷ってしまいました。結局、空港内を1時間以上さまよったのですが、その間、不安で心身共に疲れ果てました」
平田さんは何とか本来行くべきだった待機場所にたどり着いた後も心休まることはなかったそうだ。
「その先はバスに乗って隔離先に行くのですが、バスの出発時間も、隔離先の場所も、聞いても『決まっていない』と言われるだけでした」
見通しの立たない「待ち」ほど長く感じるものはない。「結局、平田さんにバスに乗車するよう指示があったのは、待合場所にたどり着いてから3時間後だった。日本人と中国人あわせて15名ほどの乗車が終わると、目的地が明かされないままバスは出発した。巨大迷路と化した空港、長い待ち時間、行先不明のもはやミステリーツアー状態の移動に平田さんはすっかり疲れてしまった。
「14日間、部屋の掃除は一切なし」
ようやく隔離施設となるホテルに着いたとき、上海に到着してから実に5時間半が経過していた。案内されたのは上海市内のビジネスホテルだ。
このホテルチェーンは有名旅行サイトで星5つ中3.7以上の高い評価を得ている施設だ。何より清潔感がある。しかし、ホテルのロビーで告げられたのは「隔離期間中、部屋の清掃はなし」という規則だった。これが平田さんにとって2つ目の衝撃だ。隔離期間は部屋の掃除機がけやトイレの掃除だけでなく、アメニティーの補充やタオル・シーツの交換も一切なしなのだ。
「これは参りました。ホテル側からはとにかく『汚さないように使え』とだけ。シャンプーやひげ剃りは持ってきていたので良かったのですが、タオルは足りません。ホテルからの貸し出しは2枚だけで、手洗いして使い回しました。しかし、シーツだけは手洗いは無理で、どうしようもなくて。ファブリーズを持ってくるべきだったと後悔しました」