定額給付金は個人の預金が増えただけ

10万円定額給付金による消費底上げ効果の検証は今後の課題だが、現段階でのデータを見る限り、これまでの給付金と同様に消費の押し上げ効果は限定的だ。「家計調査」では実収入が増える一方、消費額が減少して貯蓄率が上昇している。

「マネーストック(M3)」の推移を確認すると、8月の個人の預金(平均残高)は前年同月より53兆円増加し、前年比では11.5%という高い伸びである。リーマンショック時に預金の増加率がマイナスに転じたこととは対照的だ。マクロで見れば、個人の預金は増えているが消費に回っていない。

貯金箱にお金を入れる女性の手
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
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5万円の定額給付金の追加支給は政治的な理由付けが難しく、経済的には費用対効果に乏しい悪手であって、「勘違い」と言えよう。

コロナ禍のダメージは業種による差が顕著であることや、感染拡大防止と経済活動のバランスを取りながら、新型コロナウイルスの終息を待つという持久戦になることから、従来の経済対策とは様相が異なる。

特定の業種やそこから波及する業種を支えるためのGo Toキャンペーンや雇用調整助成金等による雇用対策、困窮世帯向け支援など取るべき施策が山積みである。国庫を預かる麻生財務相としては、政府の財政状況を踏まえると、無駄玉は撃ちたくないし、タガが外れたような放漫財政の議論にくぎを刺したいという思惑もあるだろう。

日本の極めて厳しい財政状況を忘れてはいけない

戦後最大の経済危機に対処するために、世界各国で空前の財政出動が続いていて、財政支出に対する感覚がまひしているが、日本の財政状況は極めて厳しい。

2013年に政府と日銀が共同で公表した「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」では、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」と記されている。

経世済民政策研究会が提出した「更なる経済対策としての第三次補正予算編成を求める要望書」に、政府と日銀の連携の継続が1番目の項目として掲げられているが、政府側に取ってみれば、財政運営に対する信認確保に努めるということでもある。

異次元緩和による超低金利で利払い負担が減り、YCC(イールドカーブ・コントロール)や国債購入額の目標を撤廃したことで、一見、国債市場は落ち着いているように見えるが、「国債市場特別参加者会合(第90回)議事要旨」(財務省)によると、「日本銀行による積極的な国債買入スタンスを背景に10年債金利はゼロ%程度での推移が継続すると考えているが、今後の更なる財政支出の増加も意識される中で今年度途中に大幅発行増額となった経緯もあり、超長期ゾーンを中心に金利上昇への警戒感が残ると見込んでいる」と、超長期債の金利上昇を懸念する声もある。