価値観の変化「スーツはビジネスに必須とは限らない」

また、コロナショック以前からカジュアルなビジネスウエアへの需要は徐々に高まっていた。マイクロソフトのビル・ゲイツやアップルの故スティーブ・ジョブズらは、新商品のプレゼンなどをネクタイ&スーツ姿ではなく、ジーンズを主体とするカジュアルないでたちで行った。

それによって、スーツはビジネスに必須とは限らないとの価値観が生まれた。コロナショックによってテレワークなどが浸透し、スーツをベースとするビジネスマナーは変化している。感染をいち早く食い止めた中国ではそうした取り組みが鮮明であるようだ。

見方を変えれば、ファーストリテイリングはかなり早い段階で需要の変容を察知し、ビジネスにも日常生活にも対応できる衣類の創造を目指した。そうした取り組みが、コロナ禍をきっかけに中国市場などで一気に花開き、同社の需要獲得につながっているとの印象を持つ。それに加えて、ファーストリテイリングのデザイン、品質管理なども中国の消費者にとっては魅力だ。

ライバルに差をつける世界一の戦略

また、ファーストリテイリングが“情報製造小売業”としてのビジネスモデル構築を目指していることも重要だ。同社は、IT先端技術を駆使して、効率的な在庫管理や人件費の削減、需要の変化の精緻な把握と予測などを行う体制を強化した。

キャンドルと一緒に、スティーブ・ジョブズをiPadに表示し彼の死を悼む
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その上、裁断や縫製を必要としないアパレルの編み上げ技術である「ホールガーメント」を導入することによって、製造の効率化を実現した。それが中国市場をはじめとする世界規模での急速かつ大規模な環境変化への対応を支えている。

現在のグローバルな競争環境を俯瞰した時、世界のアパレル業界の中でファーストリテイリングの事業戦略は最も優位といっても過言ではない。ファッション性を重視してきたインディテックスとH&Mが、需要の変容にどう対応できるかは不透明だ。

つまり、ファーストリテイリングは大手ライバル企業よりも、事業の中長期的な方針を明確化できている。それがアパレル大手3社の株価推移に影響した。年初来から10月下旬までの間、ファーストリテイリングはライバル2社の株を上回って推移している。