台湾では国民党独裁の時代が長く続きました。戒厳令が敷かれ、言論弾圧がありました。1987年に戒厳令が解除され、翌年に李登輝さんが総統に就任すると、様々な形で民主化の芽が出てきました。

96年に初めて総統直接選挙が行われますが、当時はすでにインターネットが存在していましたから、人々が想像する民主主義というものは多元的になっていました。つまり、民主主義には定型化された運用方法は存在せず、1つのテクノロジーにすぎないと皆が考えるようになったのです。テクノロジーですから、使い勝手が悪ければ改修すればいいわけです。実際、台湾の憲法は状況の変化に応じて何度も改正されています。国民が「絶対にこうでなければならない」という感覚に縛られていないのです。これは大きなことだと思います。

台湾の憲法には政治への直接参加の精神がうたわれていますが、代議制についてはほとんど触れられていません。この政治への直接参加と常に改修していくという2つのことが合わさって、柔軟性があって生き生きとした社会が形成されているのでしょう。

誰もが政治参加をしやすい環境

――それはタンさんが掲げるデジタル民主主義とも関係していますか。

ええ。デジタル民主主義の根幹は、政府と国民が双方的に議論できるようにしようということです。私は国民の意見が伝わりにくいという間接民主主義の弱点をインターネットなどのデジタル技術の力で誰もが政治参加をしやすい環境に変えていこうとしているのです。

デジタル技術は社会のイノベーションに寄与しますし、政治であればオープン・ガバメント(開かれた政府)を実現する基礎となるでしょう。私の役割はITによって国民がお互いに語り合える場を提供すること。デジタルは国民が一緒に社会や政治を考えるツールにすぎません。

――デジタルをツールとして使いこなすということですね。

先ほど省庁間の連携を図るのが、私の仕事だと言いましたが、これは境界をなくしていくということです。縦割り組織や年齢の壁を取り払っていく。そこにデジタル技術が役立つなら積極的に使えばいいでしょう。AIによって仕事が奪われると心配する人もいますが、むしろ新しい価値観や仕事が生まれてくると思います。

しかし、私は必ずしもデジタル技術を使わなければならないとは考えていません。例えば、ウイルスを防ぐ最良の方法は石鹸を使うことで、2番目に良いのはアルコール消毒をすることです。これをデジタル技術に置き換えることはできません。私たちも石鹸で手を洗いましょうという同じ方向を向いています。そのうえで、「手を洗いましょう」というメッセージを、デジタルの力でより早く伝えようとしているだけです。