政府が日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した判断に関心が集まっている。東京工業大学の西田亮介准教授は「今回の政府の判断は問題だ。しかしその背景には大学に対する日本社会の不信がある。厳しい世論に向き合わなければ、学問の未来はない」という——。
記者団の取材に応じる菅義偉首相=2020年10月16日午後、首相官邸
写真=時事通信フォト
記者団の取材に応じる菅義偉首相=2020年10月16日午後、首相官邸

野党は臨時国会でもこの問題を追求する構えだが…

新政権が誕生してひとつきが経った。自民党総裁選から安倍政権の継承を掲げて、デジタル化の推進や携帯電話料金の値下げ、はんこの廃止、不妊治療への保険適用など、世論の反発が起きにくい政策を矢継ぎ早に投入している。政権の出だしも順調で、内閣支持率も総じて高く、長期政権となった前政権からの移行はそれなりに順調にみえる。

そのなかで大きな関心が高まっているのが、日本学術会議の任免をめぐる問題である。既報のとおりだが、105人の推薦リストのうち、6人の任免を政権が拒否したことから、学界のみならず、大きな反発が上がっている。ネットメディアやマスメディアでも、学問の自由の侵害か否か、そして政権最初の躓きとなるや否やと関心を集め、野党は近く始まる臨時国会でも追求する構えを見せている。

そもそも日本学術会議とは何か。概ね各先進国が設置しているアカデミーの日本版と考えられる。近年では政府からの諮問はあまり行われず、答申も乏しかったが、提言の提出やシンポジウムの開催、他国のアカデミーとの関係構築などを行ってきた。

だが、近年では具体的な制度論、政策論に関しては、同じ内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が「科学技術・イノベーション政策の推進のための司令塔」として活発な活動を行ってきた。なお日本学術会議それ自体は、研究機関ではない。

研究者人生の後半に意識される「名誉職」に近い

日本学術会議法は以下のように定めている。

第一条 この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
 2 日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
 3 日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。
第二条 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。

内閣府のホームページには、「内閣総理大臣の所轄の下、独立して以下の職務を行う内閣府の『特別の機関』」と記されている。事務局もそうだが、組織論としては内閣府の一機関ということになる。

1949年の設立後、会員は研究者の投票によって選出されていたが、現在の制度では現在の会員が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦」(日本学術会議法第十七条)し、内閣総理大臣が任命する。予算の分配を行っているわけでもなく、一般的な職業研究者の日頃の研究活動や環境ではその存在を意識するようなものでもなかった。

また210人の会員の大半がシニアの研究者で、予算が年10億円、そのうち5億円を事務局経費(事務局人件費)としていることからして、経済的、研究費的インセンティブは皆無に近い。したがって、筆者も含め、研究者が学術会議会員になることを目指して、日頃の研究活動を行うなどということはまず考えられないといえる。どちらかというと、研究者人生の後半から終盤に意識される名誉職としての性格が強いはずだ。