自動車ローン会社がつぶれたり、クレジットカード会社が破綻するかもしれない。その際に債権の回収業務を代行する会社も一蓮托生で破綻すれば、ABSそのものを持っていただけで甚大な被害を受けることになる。
おそらくそんな連想がABSのスプレッドを全分野で急上昇させているのだろう。しかも、ヨーロッパのABS市場は裾野が広く、金融技術やヘッジの手段もアメリカほど整備されていない。いったん下げると戻るまで長い時間がかかってしまう市場なのだ。
図(前頁図参照)が意味しているのは、「普通」のABSを大量に保有する欧州金融機関において、多大な損失が発生しつつあるという状況を示している。ところが、ヨーロッパの金融機関は、アメリカほどディスクロージャー(情報公開)が統一されていない。それだけに、どの金融機関がどの程度の損失を抱えているのかがわからず、疑心暗鬼になりがちだ。ある金融機関で、予想外の損失が明らかになったとたん、金融不安が一気に火を噴くことになりかねない状況にあるということだ。
もう一つ問題がある。ヨーロッパ各国の足並みの悪さだ。EUは緩やかな連合体であり、金融政策決定は各国の金融当局の裁量に委ねられている。協調して行動するにも強力なリーダーシップの下で、危機意識を共有する必要があるが、一朝有事の際にこれが機能するかどうかも懸念材料となっている。
つまり、現在のヨーロッパは昨年8月、9月ごろのアメリカに似ている。各国政府が、この現状を的確にとらえて金融機関の損失状況を公開し、再度の資本注入や不良資産の買い取り、損失保証などを協調して実施するといった政策を打ち出さない限り、再び、世界に大激震が走る懸念がぬぐえない。
(山下知志=構成 芳地博之=撮影 マークイット=資料提供)