病院は24時間、年中無休の組織だ。真夜中でも正月でも患者の手当てをしなくてはならず、所属する医師や看護師が全員で集まる機会を設けるのは難しい。

白衣のスタッフが大講堂にずらりと並ぶ風景は圧巻。講話は、するほうもされるほうも勉強になる。

白衣のスタッフが大講堂にずらりと並ぶ風景は圧巻。講話は、するほうもされるほうも勉強になる。

「しかし、医療現場ではコミュニケーションを緊密にしなくてはならない。なんといっても、我々は人の命を預かっているのですから」

福島県郡山市にある総合南東北病院の理事長で、脳神経外科医の渡邉一夫氏はそう語った。同病院は病床数449、職員は960人。系列の医療、介護機関が約50施設あり、全職員数は3000人を超える。企業なら一部上場の規模だ。高度先進医療の確立に熱心で、がん治療に有効な陽子線治療システムを備えた民間初の医療機関でもある。

朝礼は毎週月曜日の朝8時半から30分間だ。出席者は300人程度。中央棟の大講堂に集まり、全員、起立して行う。まずは、親切、秩序、対話など5つの「院訓」の唱和。次に「すべては患者さんのために」という「院是」の唱和。さらに「世の中で一番楽しく立派なことは一生涯を貫く仕事を持つこと」に始まる福沢諭吉の心訓を唱和する。

連絡事項を伝えた後、理事長もしくはベテラン医師が講話を行う。
「医師は人前で話すことに慣れていません。それぞれが科学者なので、間違ったことを話すのを恐れ、データの数字にこだわる。原稿をただ読み上げるだけだったり、声も小さくなる傾向があり、なかなか人の心に届くスピーチができないのです。私は、自分も含めた医師が大勢の前でちゃんとした話ができるように、朝礼に講話の時間をつくりました」(渡邉理事長)

これまで、医療現場のチームワークは実際に診療にあたっているチームだけのものになりがちだった。ところが同病院では、朝礼を行うことで、小さな単位のチームワークを全病院規模まで広げたのだ。

(尾関裕士=撮影)