コロナ禍でオフコースの名曲を聴いていたら主人在宅ストレス症候群に
私はコロナ禍の5月、あるクリニックで聞き慣れない“病名”の診断を受けた。担当の女性医師はこう言った。
「おそらく夫源(ふげん)病ですね」
夫源病は、正式な医学的病名ではない。夫の言動が強いストレスとなり、妻の心身にめまい、動悸、頭痛、不眠など不定愁訴を引き起こす症状で、「主人在宅ストレス症候群」と呼ばれることもある。定年後に1日中、自宅にいるようになった夫の影響で「夫源病」となる女性が多いと言われる。要は、私は自律神経に不調をきたしたということだ。
思い当たることは確かにあった。私は、主に教育・子育て・介護アドバイザーとして以前からずっと在宅ワークをしていた。日中は家でひとり自由きままに暮らしていたが、このコロナ禍で夫もリモートワーカーになった。狭いリビングのテーブルの対角線上に置かれたパソコンの前で熟年夫婦はずっと同じ空気を吸うことになったのだ。
緊急事態宣言にも慣れだした5月初旬の頃からだろうか。私の血圧の値はこれまでほぼ問題なかったが、突然、急上昇し、上が200を超えることもあった。それにともない、めまい、動悸、頭痛に悩まされるようになった。その原因を、突き詰めるとこうである。
「オフコースのせい」
自宅で夫が選ぶBGMは、小田和正さんがボーカルを務めるバンド「オフコース」の楽曲だった。私もオフコースは好きだ。「さよなら」や「Yes-No」などの大ヒット曲の美しいメロディは、いつも私の心をやさしく癒やしてくれた。今年デビュー50周年を迎えた、そのオフコースが夫源病の原因かもしれないと、医師は言うのだった。
「きっと今まではご自分で自由にBGMも決めていましたよね? どんな曲を流すか、いつ止めるか。全部、自分の裁量でできたかもしれませんが、今は、在宅勤務となった旦那さんがそれと同じことをやっている。もし、そうなら、心身のリズムが狂ってもおかしくありません。自分のペースでできないってことは、想像以上にストレスが大きいんですよ」
コロナ禍の在宅勤務&自粛ムードでイライラ・モヤモヤ
意外な診断内容に驚くと同時に、疑問が湧き上がった。大好きなオフコースなのに、なぜ、と。医師は解決方法をこう教えてくれた。
「夫婦間の仲がいいとか悪いとかの問題じゃないんです。近い関係だからこそ、パーソナルスペースは必要。他に部屋があるなら、どちらかが別の部屋に移動したほうがいいかもしれませんね」
同じ空間でBGMを聴くことだけでなく、突然、「夫と2人」の時間が急増したことで、目に見えない小さなモヤモヤ・イライラが積み重なったというわけだ。
図らずも、当時、私はある精神科医を取材し、コロナ鬱に関する著作の構成を手がけていた(『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』双葉社)。その私が自律神経失調症になるなんて「ミイラ取りがミイラになった」ようなものだが、その後は、お互いの仕事中は私が部屋を移動することにしたため、今はどうにか小康状態を保っている。
このコロナ禍は多くの企業や人に深刻なダメージを与えているが、夫婦関係もまたそうで、わが家のように微妙な空気になっているケースも多い。夫婦が一緒にいる時間が増加したことで、仲良しだったはずの夫婦の価値観のズレが浮き彫りになるのだ。
以下に、3つの事例を紹介しよう。