「ウイルスの次にやってくるもの」はなにか

「手を洗えば新型コロナウイルスに感染する確率は下がる。でも、心の中にひそんでいて、流れていかないものがある。それは人から人に伝わっていく『恐怖』だ」

8月25日付の毎日新聞の社説はこう書き出し、感染対策が人の心に及ぼす悪影響を問題視している。この毎日社説は1本の大きな扱いで、見出しは「コロナの時代 つながりの再構築 『お互いさま』を広げたい」である。

毎日社説は書く。

「日本赤十字社がユーチューブにアップした動画にある言葉だ。恐怖が広がれば『人と人が傷つけあい、分断が始まる』と訴える」

この動画は沙鴎一歩も目にした。「ウイルスの次にやってくるもの」というタイトルのアニメーションで、人々の間に恐怖が広がり、「ウイルスが広まったのは、あいつのせいだ!」と攻撃しあう様子を描いている。そのうえで最後は「だから励ましあおう。応援しあおう。人は、団結すれば、恐怖よりも強く、賢い」と呼びかけている。

人には自らの命を守ろうとする防衛反応がある。目に見えない病原体に対しては、その防衛反応はより強く働く。そこをよく自覚して行動すれば、過剰反応を防ぐことができるはずだ。

マスクをしない人をとがめる「マスク警察」の歪んだ思考

さらに毎日社説は指摘する。

「新型コロナは他者への差別や偏見を生み、社会に亀裂をもたらしている。感染した人や家族を非難する声は収まらない。自分の『正義』を振りかざし、マスクをしない人をとがめる『マスク警察』の現象は今も続く」「背景に浮かぶのは、感染への不安ばかりではない」
「『ステイホーム』や『ソーシャルディスタンス』で他者とのつながりが希薄になった。個人が次第に孤立していったことが分断に拍車をかけている」

「社会の亀裂」「孤立」「分断」。毎日社説が指摘するように、私たちは過度な防疫が人の心を深く傷付けることがあることを自覚すべきだ。

毎日社説はこんな調査結果を取り上げる。

「大阪大などの研究者による国内外の意識調査は興味深い。各国400~500人を対象に行われ、『感染するのは本人が悪い』と答えた日本人は3~4月時点で約11%に上った。1~2%台にとどまる米国、英国、イタリアと比べ突出して高い」

新型コロナにはだれでも感染する。感染症に対する無知が「感染するのは本人が悪い」という歪んだ思考を生んでしまうのだ。

毎日社説は「一人一人が感染を広げない自覚を持つべきだという考えは大事だ。だが、個人が孤立を深める中、その意識が過剰になれば、他者を責める声が大きくなる」とも書く。その通りである。