中国が“世界の工場”としての地位を確立するまで

中国共産党政権は、党の主導によって経済成長を高め、“党に従えば豊かになれる”という価値観を国民に与えた。その期待(共産党政権の求心力)を保つために、共産党指導部は米国をはじめ世界の先端分野の知的財産や技術の吸収に注力し、国際社会での影響力を強めた。米国としては中国の台頭を阻止し、世界の覇権国(リーダー)としての地位を守るために、中国の台頭を阻止する必要がある。結果、米中の対立が激化している。

まず、そうした状況に至る背景を確認したい。

1989年6月4日の「天安門事件」を目にした世界の経済の専門家は、「これで中国は民主化の道を歩み、いわゆる“普通の国”を目指す」と確信した。しかし、その後の中国は期待をことごとく裏切った。1990年代、共産党政権は国内市場の開放を段階的に進め、海外企業を誘致して技術移転を進めた。中国は“世界の工場”としての地位を確立し、輸出によって高成長を遂げた。

リーマンショック後、共産党政権は4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の経済対策を実施し、公共事業など投資によって景気を支えつつ、ITを中心に成長期待の高い産業を育成し、経済成長を維持しようとした。補助金政策などを用いて先端分野の競争力向上を目指す「中国製造2025」はその象徴だ。

米中対立の先鋭化と深まる「分断」

そうして、中国は民主化という意味での普通の国ではなく、党の指揮による社会と経済の運営体制=国家資本主義体制を強化し、人々が党に従う環境を整備した。

米国の保守派は、オバマ前政権が中国との協調を重視して民主化を促そうとしたのが間違いだったと批判している。7月以降、ポンペオ国務長官などの対中強硬派は、共産党政権が米国の知的財産などを手に入れ、覇権強化を目指していると危機感をあらわにした。

その後、米国はファーウェイなど中国のIT5社と政府機関の取引や、TikTokなどのアプリを排除し、ファーウェイへの半導体供給網も事実上遮断した。香港や新疆しんきょうウイグル自治区などでの人権問題に関して、主要先進国は米国と歩調を合わせ中国への懸念を表明した。

その状況下、共産党政権は、米国に対抗し求心力を維持しなければならない。米中対立は先鋭化し、米中の「デカップリング(分断)」が深まっている。