中国経済の光と影「債務依存度は高まるばかり」
現在の中国経済は、光と影が混ざったまだら模様の状態だ。明るい部分として、4~6月期のGDP成長率はプラスだった。
それを支えた要因の1つは、自動車の生産と販売の回復だ。中国政府が感染対策を徹底した結果、4月に入り中国の生産活動が回復しはじめた。その上で、政府は電気自動車(EV)などの販売補助金を2年延長し、新車販売台数は前年同月比で増加に転じた。
産業のすそ野が広い自動車の販売増加は、中国経済の持ち直しを支えた一因だ。世界経済全体で中国以外に自動車の販売が増加している市場は見当たらない。
公共事業の積み増しも経済を支えた。橋梁や鉄道、工場建設のために鉄鋼やセメントの生産が増加し、4~6月期のプラス成長を支えた。中国の個人消費が低迷していることを考えると、目先の景気安定に公共事業の重要性は高まっている。AIなどIT先端分野での競争力も景気を支える要因だ。
一方で、中国経済には影の部分もある。経済成長の限界を迎えつつあることだ。2018年以降、度重なるインフラ投資にもかかわらず中国のGDP成長率は鈍化したことがそれを示している。資本の効率性は低下し、債務問題は深刻化している。
その状況を改善するために、昨年4月ごろまで李克強(リー・コーチアン)首相と劉鶴(リウホー)副首相は規制の緩和や市場原理の導入など構造改革を重視し、鉄鋼などの過剰生産能力の解消と、成長期待の高い先端分野への生産要素の再配分を目指した。
背景には、わが国の教訓がある。1990年代初頭のバブルが崩壊後、1997年までわが国は公共事業を積み増し“ハコモノ”を建設することで雇用保護を優先した。その結果、不良債権処理が遅れ経済は長期停滞に陥った。
しかし、昨年4月下旬、米中の通商摩擦が一段と激化し、習近平国家主席は保守派に配慮して補助金政策などを用いた経済運営を優先した。地方政府は債券発行による資金調達を増やし不動産開発やインフラ投資を行った。その結果、債務残高は増加した。その上に新型コロナウイルスが発生し、債務依存度が高まっている。
歴史から振り返ると中国の不動産バブルに調整圧力か
また、中国人民銀行(中央銀行)は新型コロナウイルスの感染拡大による中小企業などの資金繰りを支えるために、金融緩和を強化した。その結果、4月以降、景気の持ち直しとともに投資資金は不動産市場に還流し、不動産バブルが再膨張している。それも中国経済の弱さの1つだ。
バブル発生の経緯を簡単に振り返っておこう。リーマンショック後、中国は景気対策の一環として不動産開発を重視した。その結果、不動産価格上昇への期待が高まり、多くの人が資金を借り入れて不動産を購入した。“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が連鎖して不動産価格は高騰し、バブルが発生した。
中国政府は景気と不動産価格の動向に合わせて金融政策や融資規制などを調整し、バブルの崩壊を防いだ。2020年1~3月期、新型コロナウイルスの感染発生によって一時的に中国の不動産投資は鈍化したが、景気の持ち直しによって価格には上昇圧力がかかっている。
未来永劫、資産価格が上昇し続け、債務が増え続けることはありえない。日米のバブルの歴史を振り返ると、GDPの2倍程度に民間(家計と金融機関を除く企業)の債務残高が達すると、経済全体に調整圧力がかかる可能性が高まる。