サムスンの業績に影響も

BIS(国際決済銀行)によると3月末で中国の民間部門の債務残高はGDPの204.6%だ。その水準は1980年代後半のわが国の状況に近い。不動産バブルに加え、基礎資材分野では過剰生産能力が増している。それを補助金などで延命するにも限度がある。中国経済の下方リスクは上昇しているとみるべきだ。

それは、中国経済に依存して社会と経済の安定を維持してきた韓国にとって無視できないリスクだ。過去、中国経済がそれなりに落ち着いている場合、最大の輸出先である中国の需要を取り込んで韓国では設備投資が増え、雇用・所得環境が改善した。

それを支えたのが韓国最大の企業であるサムスン電子だ。同社の中国向けの半導体輸出などが増えると韓国全体で株価は上昇し、消費者心理も上向いた。反対に、中国のバブル崩壊懸念が高まる場合、同社の業績にはかなりの影響があるだろう。

中国は不良債権処理が不可避に

その場合に懸念されるのは、韓国経済の機能が大きく低下することだ。最大のポイントは、韓国経済の大黒柱であるサムスン電子への影響である。韓国経済にとって最も重要な企業はサムスンであることは言うまでもない。同国のGDPの約2割を占める、押しも押されもせぬ経済の中心企業だ。

サムスンの台頭には、韓国の過去の保守派政権の経済運営姿勢が強く影響している。朝鮮戦争の休戦後、保守派政権はサムスン電子を筆頭に財閥企業の経営を優遇した。サムスン電子などは政府の支援を取り付けつつ、わが国からの技術移転を進めた。

その結果、韓国は汎用品を大量生産し、低価格で輸出する体制を整え、最大の輸出先である中国を中心に海外の需要を取り込んで経済成長を実現した。

半導体をはじめIT先端分野で世界的シェアを手に入れたサムスン電子には、多くの人が就職を目指した。良い大学を卒業し、賃金水準の高いサムスン電子に就職することを夢見た。それは韓国の受験戦争がし烈化した要因の1つだ。

そのサムスンの重要顧客の1つは中国のIT企業だ。いわば、中国経済が元気で同国のIT企業が隆盛を誇っている間は、サムスンも相応の収益を上げることが可能になる。問題は、中国経済の中の不動産バブルが崩壊する懸念だ。中国経済が低迷期に入ると、中国と関係の深い韓国にもマイナスの波が及ぶことは避けられない。

いつ、そうした展開が起きるかは予想できないが、どこかのタイミングで中国の不動産バブルは崩壊し、不良債権処理が不可避となるだろう。それによって、中国経済の成長は鈍化し、サムスン電子が中国の需要を取り込んで業績拡大を目指すことは難しくなることが懸念される。