相手によって「伝えるべき情報」も変わる

要約して何かを伝えるときに、肝心なのは「伝える相手」を明確にすることです。

山口拓朗『9割捨てて10倍伝わる』(日本実業出版社)

たとえば、あなたが自己紹介をするとき、その相手は誰でしょうか? 同じ部署に配属された新人なのか、転職した先の上司なのか、取引先の担当者なのか、引っ越してきたご近所さんなのか——伝える相手によって、要約すべき情報は変化します。

わたしが講演を行なうときは、まず「聴講者がどういう属性の人なのか」を見定めます。聴講者の属性や傾向に応じて、話す内容や話し方、言葉の選び方を変えるほうが伝わりやすいからです。聴講者の属性や傾向を無視すれば、まったく理解できない話や興味を持てない話になりかねず、それでは「聴講者に満足してもらう」という目的が達成できません。

仮に、あなたが住宅メーカーの営業マンだったとします。マーケティングやセールスの能力もまた「要約力」の一部です。

「要約力」が高い人は、自社商品のチラシを作るときに、「このチラシをいちばん届けたい人(=ターゲット)は誰か?」について熟考します。なぜなら、競合多数&情報過多な時代の中で、不特定多数に興味を持ってもらうことは至難の業だからです。

(1)老後に安心して暮らせる住宅を求めている50代の夫婦
(2)親の介護を見越して二世帯住宅を検討している40代の夫婦
(3)都会的なセンスあふれる仕様(デザイン性)を求める共働き・子どもなしの30代夫婦
(4)シックハウスが気になる、5歳以下の子どもがいる20代夫婦

(1)〜(4)はそれぞれ「伝える相手は誰?」、つまり、ターゲットを明確にした状態です。これくらい具体的に「伝える相手」が見えていれば、要約の仕方にも工夫が生まれます。

相手が見えれば「死んでもこれだけは言っておく」を決めやすくなる

以下は、それぞれのターゲットに向けて紡いだ〈死んでもこれだけは言っておく!〉の例です。

(1)ストレスフリーなシニアライフが楽しめるバリアフリー住宅です。
(2)「気配」と「つながり」を大切にする二世帯住宅です。
(3)アーバンライフが満喫できるデザイナーズ住宅です。
(4)子どもたちの健康を第一に考えた自然素材の住宅です。

このように、伝える相手を明確にすることで〈死んでもこれだけは言っておく!〉の情報が決めやすくなります。「刺さる言葉」や「響く言葉」というのは、伝える相手を明確にすることによって、生み出すことができるのです。