皮肉にも国安法が幸いして天安門事件の悲劇は避けられた

香港の未来は予測できない。いま言えることは、皮肉にも国家安全維持法(国安法)が幸いして、天安門事件のような悲劇を避けられたということである。

1989年の6月3日夜から4日朝にかけて起きた天安門事件では、中国政府が北京の天安門広場に集まる多くの学生たち若者を武力で排除した。戦車が出動、実弾も発砲された。イギリス外務省の公文書は1000~3000人が殺害されたと推計している。中国政府は実弾の発砲を否定し、死者数を319人と発表したが、国際社会は信じなかった。

中国は国際社会からの批判を恐れている。それゆえ、新たに制定した国安法によって香港の民主化運動を見かけ上、合法的に抑え込もうとしているのだ。中国は国際社会の批判を回避しようと懸命なのである。

以前にも指摘したように、香港で民主化を求める若者たちのエネルギーを抑え込むほど、火山が爆発するように不満がたまり、やがてそれは中国本土の政治体制を吹き飛ばすだろう。そして、それは中国経済の崩壊から始まるのではないだろうか。

朝日社説は「露骨な自治権の侵害に強く抗議する」と主張

8月4日付の朝日新聞の社説はこう書き出す。

「独特な都市文化を誇った香港の自由が急速に奪われている。中国政府の新法による締め付けの結果であり、露骨な自治権の侵害に強く抗議する」

見出しは「香港の選挙 崩れていく自由の基盤」だ。さらに朝日社説は書く。

「香港では昨年来、デモ活動が続いていたが、香港政府の背後にいる中国政府は市民の声に耳を傾けるどころか、逆に言動を取り締まるための香港国家安全維持法(国安法)を一方的に制定した」
「市民が反発するのは当然であり、それが民主派による先月の予備選挙にも表れた。当局の圧力にもかかわらず60万人超が投票に足を運んだのである」

香港市民の反発こそ、民主主義を求める声だ。

アメリカだけではなく、イギリスやオーストラリア、ドイツ、フランスも香港との間の犯罪人引き渡し条約をストップするなど、立法会選挙の延期に抗議している。もちろん日本政府も香港の非民主的動きを憂慮し、批判を強めている。国際社会はこうした動きをさらに続け、香港政府のうしろに存在する中国の習近平政権の動きを封じ込める必要がある。