権力を監視する立場にある政治記者は、なぜ政治家との会食をやめないのか。朝日新聞の南彰記者は「食事をともにする中で、政権の重要なやりとりが明かされることもある。まとまって話ができる会食は、貴重な取材の場になってきた」と指摘する——。

※本稿は、南彰『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

河井克行前法相夫妻(いずれも自民党離党)の起訴を受け、記者団の質問に答える安倍晋三首相=2020年7月8日夜、首相官邸
写真=時事通信フォト
河井克行前法相夫妻(いずれも自民党離党)の起訴を受け、記者団の質問に答える安倍晋三首相=2020年7月8日夜、首相官邸

「桜を見る会」疑惑中に首相と会食

「桜を見る会」の疑惑追及のさなか、メディアへの不信感を招く「事件」が起きた。

2019年11月20日の夜、安倍晋三首相と、新聞・通信社・TVの官邸記者クラブキャップがそろって「懇談」の名で会食したからだ。

官邸周辺の中華料理店で行われた懇談は1人6000円の会費制だ。安倍首相におごられたものではない。毎年2回ほど定期的に行われているもので、毎日新聞を除く社は、通常どおり参加した。疑惑の渦中にいる安倍首相やその側近が、どんな表情で、何を語るのか。その場で質問したり、観察したりしたい気持ちはわかる。

しかし、この時点で官邸記者クラブは、安倍首相に「記者会見」という公の場での説明を求める要請を正式に行っていなかった。それにもかかわらず、「記事にしないこと」が前提のオフレコの懇談を優先したことは、外から「なれあい」と映った。

安倍首相の「懇談」は続いた。19年12月17日夜には、首相の動静を追いかけ、「総理番」と呼ばれる各社の若手記者を対象にした懇談が東京・神田小川町の居酒屋で開催された。会費は4500円。毎日新聞と東京新聞は参加しなかった。

読者から「なぜ必要なのか」と質問があっても…

年が明けても、20年1月10日に東京・京橋の日本料理店で各社のベテラン政治記者ら7人で安倍首相を囲んだ。

政治ジャーナリストの田崎史郎氏(元・時事通信解説委員長)のほか、曽我豪・朝日新聞編集委員、山田孝男・毎日新聞特別編集委員、小田尚・読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員、島田敏男・NHK名古屋拠点放送局長、粕谷賢之・日本テレビ取締役執行役員、石川一郎・テレビ東京ホールディングス専務取締役が参加していた。

官邸記者クラブとの懇談を欠席していた毎日新聞の参加者もいたことで、ネット上では「毎日が頑張っているので購読を始めたが、毎日も参加していることを知り解約した」と失望の連鎖が広がった。そうしたなか、1月24日付の朝日新聞朝刊にある読者投稿が載った。