「発達障害の分際で」と夫からモラハラ

ある発達障害の女性は高学歴で、以前に正社員として商社などでの勤務歴もあり、物事をロジカルに追究する能力の極めて高い人なのですが、家庭では夫に完全に服従していました。

お金の管理もぜんぶ夫がしていて、女性はお小遣いをもらうだけ。夫からは「お前なんか、発達障害の分際で」などと、ひどいモラハラ発言もありました。当初、女性はそんな境遇を特に不満なく受け入れていたのですが、あるとき、「こんな扱いはおかしい!」と気がついて、離婚を思い立ちました。今は、自立に向けて就職活動をしているところです。

興味深いのは、彼女が懸命に自立して働こうとしている姿を見て、夫の態度が変わり始めたことです。発達障害について理解をしたわけではなさそうですが、「働いて収入を家に入れてくれたら、それでいい」と考えているようで、夫婦関係が変化しつつあります。

理解を求めるよりも「どう暮らしていくか」

次はADHD(注意欠如多動性障害)の男性のケースです。

彼はADHDの治療薬を飲みながら金融関係の会社でしっかり働いているのですが、家では妻の話をきちんと聞こうとしませんでした。奥さんに頼まれたことをやりませんし、すると約束したことも忘れてしまうのです。しかも、お子さんにもADHDの疑いがあるため、奥さんとしてはたまりません。

長年の夫婦間の不和が高じて、妻は、「とても一緒にはやっていけない」ということで、今は別居をしています。しかし、離婚するという話には進展しませんでした。この夫婦は別居してからの方がお互いに協力できるようになり、ひんぱんに会っては子どもの治療や教育をどうしたらいいか相談を繰り返しています。

どちらのケースも、「相手の理解」を求めるより、「現実的にどう暮らしていくか」が問題となっている点が、共通しています。

理解のないパートナーと別れて自立する道を選ぶのか、理解してもらうのは諦めて、折り合いをつける道を選ぶのか。どちらの道が正解とは言えません。本人だけでなく、パートナーの考えや感情も変化していくものだからです。

「発達障害です」と打ち明けたほうがいいか

家族に対しては、発達障害の診断が下った時点で正確に打ち明けるべきです。それでは、職場ではどうするべきでしょう。「自分は発達障害だ」とカミングアウトしたほうがいいか?

結論から言うと、これはケースバイケースです。もちろん障害者雇用なら職場には告知されているわけで、具体的な症状や問題について積極的に話すべきですが、一般雇用の場合はどこまで話すか吟味する必要があります。もちろん、まったく話さないという選択肢もありえます。