「北京五輪より東京五輪が評価されることは望ましくない」

会議室でこの元スパイは、淡々と攻撃キャンペーンの実態を披露した。非常にフレンドリーな口調のこの人物は、「ヤマダサン」と説明の中で何度もこちらに呼びかけながら、マシンガンのように話を続けた。

次々と日本に対するサイバー攻撃の実態が語られる中で、筆者は暗澹あんたんたる気持ちになっていた。というのも、こうした攻撃について、日本では一切報じられていないからだ。にもかかわらず、目の前にいる欧米の元サイバースパイは、日本が受けている被害について詳細に語っているのだ。

彼の言う「レピュテイション・ダメージ」とはどういう意味なのか。筆者が問うと、彼はこう答えた。「まず、中国2008年に開催した北京五輪よりも、ライバル国である日本の東京五輪が評価されることは望ましくないと考えています。もちろん、攻撃では金融機関やクレジットカード会社などが攻撃にさらされ、経済的な損失が出ることもあり得ますが、中国政府系ハッカーの真の目的は、金銭よりもターゲット企業などの信用をおとしめることです。なぜなら、彼らは政府などに雇われてカネで動いているため、金銭的には困っていないからです」

「スポンサー企業などが攻撃によって被害を露呈すれば、ほかのスポンサーや参加者に『恐怖心』を与えることができます。そうなれば、サービスや実験的な試みなども控えめにならざるを得ません。長い目で見れば、五輪後も、外国の多国籍企業などがセキュリティの弱い日本への投資や進出を躊躇してしまう可能性もあるのです。そういうイメージが広がれば、日本に対抗して中国はビジネス面でも有利になると考えている。過去を振り返ると、五輪などの大会を狙ったサイバー攻撃では、1年も2年も前から攻撃の準備は始まるものなのです」