慣れてくれば文章と論理を分析・批判できるようになる
デジタルで読んでも、慣れてくれば文章と論理を分析・批判できるようになる。評者が教える京大生たちを観察してもその通りで、両方を使いこなす彼らが私たち世代の読書能力をいずれ凌駕することに疑いはない。
本書はデジタルが人間の思考力と感受性を大きく変えた現状への処方箋を与える。その根底には1970年代に社会学者マクルーハンが唱えたメディアに関する視座の転換がある。名著『メディア論』で、情報の中身(コンテンツ)よりもそれを伝える媒体(メディア)のほうがより大きく世界を変えると喝破したのだ。
それから半世紀ほど経ち社会は彼の予言通りになり、スマホとユーチューバーが情報伝達を根本から変えてしまった。本書の著者もそこに危機感を持ち、紙の本の読書が記憶力と分析力だけでなく創造力や共感力まで高めてくれるメリットを熱く語る。
人は紀元前7世紀に羊皮紙に書かれたホメロスの『イリアス』を読みながら、自ら考えるようになった。デジタル脳が優勢になると人類の文化と社会がどうなるかは、心配になるところだ。
著者は最終章で読書の喜びについて語る。それは内省的な生き方に関わる「ある種の静けさ」が必要なのだ。「私たちの内面にある熟考の次元は天与のものではなく、維持するための意思と時間が必要」(260ページ)と説く。よって、深い読みができるバイリテラシー脳の育成とともに、瞑想的な読書にも挑戦していただきたいと思う。文系理系を問わず本好きな人すべてに勧めたい好著である。