空気をお金に変えるロシア、東欧

――ところで、日本はどこから排出権を買っているのでしょうか。

今、日本政府や電力会社、鉄鋼会社などが買っている排出権は主に2種類あります。

1つのタイプは「ホットエアー」と呼ばれるものです。旧ソ連崩壊後の経済活動の低迷で温室効果ガス排出量が大幅に減少したロシア、ウクライナ、東欧諸国などが、削減目標を達成してもなお余る余剰枠を売るものです。これはまさに「空気がお金に化け」ているわけで、第一約束期間でロシアは実に55億トン、ウクライナは24億トンの「ホットエアー」を獲得する見込みです。日本政府はすでにウクライナやチェコから買い付ける契約をしています。

――何もしないで、排出権が手に入り、それが莫大なお金になるというのは、おかしくないですか。

まったくおかしな話です。制度の欠陥としかいえません。EUや日本はこうした馬鹿げたものは認めたくないのが本音ですが、タフネゴシエーターのロシアが既得権を簡単に手放すとも思えず、今後の国際交渉に委ねるしかありません。

排出権のもう1つのタイプは、CDM(クリーン開発メカニズム)と呼ばれる温室効果ガス削減事業によって創出されるものです。これは京都議定書第12条に規定されているもので、発展途上国で温室効果ガス削減事業を行うと、削減分が国連によって排出権として与えられるものです。

――具体的には、どんな事業なのでしょうか。

具体的には、たとえば水力発電や風力発電プロジェクトを立ち上げて、既存の石油や石炭焚き発電所に代替させると、排出量を削減できるので、その分の排出権を獲得できます。また、従来大気中に放出していたメタンガス、HFC23、N2Oといった温室効果ガスを回収したり分解したり、あるいは工場の廃熱を回収して暖房や温水に利用すれば、その分化石燃料使用による温室効果ガス発生を防げるので、CDMとして認められます。

これまで国連に承認されたCDM事業は1963件で、創出される排出権は年3億3400万トンですが、その6割が中国案件です。世界で最も省エネが進んだ日本が、世界最大の温室効果ガス排出国で、削減義務も負わずに垂れ流している中国から、お金を払って排出権を買っている。この点も国際的公平性からいって大いに問題があると思います。