このままだと日本だけが一人負け

――25%削減は「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」が前提になっているので問題ないと思いますが。

それは国際交渉というものを知らない人の発想ですね。国際交渉は「ワードとエクセルを付けてくれたら、このパソコン買います。そうじゃなきゃ買いません」といった単純なものじゃありません。仮に今後、交渉の土壇場になって、アメリカと中国が今より多少ましな削減目標を打ち出し、その目標が低いながらもEUや新興国が認め、新たな枠組みの成立が確実になった場合、排出量が世界のわずか4%にすぎない日本だけが「いや、アメリカと中国の目標はわが国に比べて低すぎる。だから反対だ」などとはいえません。

国際交渉を制するのは、より多くの同盟者を獲得し、議論の流れを自分のものとし、敵対者を孤立させた者です。正義や正論が勝つのではありません。

事実、今、アメリカが打ち出している2005年比マイナス17%という削減目標は1990年比でマイナス3%にすぎず、中国に至っては排出の絶対量が減らないGDP比で、しかも自主目標です。けれども日本は強い反対の声は上げていない。「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」などという前提は、交渉の中で上手く使わないと役に立たないのです。個人的には、このカードを最大限に生かして、日本一国だけが突出した削減目標を負う事態を回避してほしいと切に願っています。

――京都議定書の削減目標自体、不公平であったと述べられていますね。

日本は、他の先進国と比較しても省エネが進んだ国です。2004年時点でのGDP比の二酸化炭素排出量を見ても、日本を一とすれば、EUは1.1、アメリカ1.8、インド7.3、中国8.1、ロシア9.4です。それなのに、開催国としての面子を守るために、マイナス6%という達成不可能な削減目標に同意してしまった。一方、EUは、一応8%の削減義務を負いましたが、域内の排出量の47%を占めるドイツとイギリスの排出量が、京都会議の時点で、1990年比でそれぞれ19%と13%減っていたという事情があります。そこでEUは1990年を基準年とすることをごり押しして会議で認めさせたのです。

――ドイツとイギリスの排出量が減っていた理由は何なのでしょうか。

ドイツは1990年時点では、東西ドイツが統一したばかりで、旧東ドイツの省エネレベルが低く、省エネ(排出量削減)余地が大きかった。イギリスは1990年代に入って、発電用燃料を石炭から、二酸化炭素排出量の少ない天然ガスに切り替えていたことが理由です。

――EUは「魔法の杖」を持っていたと。

EUは2013年以降も1990年比で20~30%の削減を打ち出していますが、東欧諸国のEU加盟という新たな「魔法の杖」を持っています。2004年から2007年にかけて、チェコ、エストニア、ルーマニアなど12カ国がEUに加わりましたが、これらの国々のエネルギー効率は、EUの平均値の半分から4分の1です。したがって彼らが省エネに取り組めば、排出量は大幅に削減できます。