Q:あなたがコロナ危機以降に会話した米国の最高経営責任者(CEO)のほぼ誰もが、今後10年間は人員やオフィススペースを削減して効率性を高め、儲けを出さねばならないと言っているそうですね。米国の産業や労働市場の将来をどう見ていますか。

A:脱工業化革命が進み、テック企業が、これまでデジタル経済とは無縁だった企業を「破壊」すると予測している。企業は深刻な不況を乗り切るために、成果を上げていない部署などを閉鎖し、生産性の向上にまい進する。多くの企業が破綻を余儀なくされる。なにしろグローバル経済の遮断という未曽有の事態が起こったのだから。

その結果、米欧など、多くの国で格差が拡大する。米国ではテック企業による破壊のペースが加速し、非常に多くの人が労働市場からはじき出される。多くの仕事が消え、3~6カ月などのスパンではなく、長期的かつ構造的失業が起こるだろう。憂慮すべき事態だ。

目下のところ、知識集約型経済は安泰だが、そうしたスキルを持っていない人たちが再雇用されるまでには時間がかかりそうだ。

ニューヨーク市は、パンデミックの震源地として大きな打撃を受けた。だが、世界で最もグローバルな街であり、知識経済で働く人たちが集中している。そうした点を考えると、コロナ危機後の米国経済は、ニューヨークのような都市と他の場所との格差が開くだろう。

一方、都市内での格差も拡大し、サンダース上院議員のようなポピュリズムが台頭する。大統領選の民主党候補者に選ばれる見通しのバイデン前副大統領は、政策の左傾化を迫られる。

自由貿易や主流メディア、銀行など、企業のCEOに対する怒りが膨らみ、社会主義に傾く人が増えるだろう。大半の米国人にとって、資本主義と議会制民主主義は(失業や不況への)答えにはならない。世界の民主主義国で、ポピュリズムや過激主義、反体制的な風潮が強まるだろう。

新興国はまもなく金融危機に襲われる

Q:パンデミックが新興国に及ぼす影響への懸念を再三、指摘していますね。

A:新興国は医療制度が十分でなく、経済再建のすべも限られている。国際通貨基金(IMF)からの緊急支援も十分に受けられない。2001年に財政破綻し、コロナ危機で国債の債務不履行の可能性が出てきたアルゼンチンのような金融危機に見舞われる新興国も出るだろう。人口密度が低い国が多いため、感染による死者はさほど増えないかもしれないが、経済への影響は極めて深刻だ。

そもそも時代が脱工業化革命へと向かう中、過去20年にわたって拡大してきた新興国の中流層が打撃を受けつつある。ブラジルやインド、トルコなどの中流層が、これまでのような生活を送れなくなるのが大きな問題だ。

Q:金融危機と今回のパンデミックで最も違う点は米国のリーダーシップの有無だと、あなたは指摘しています。パンデミックで加速するGゼロ時代の潮流について、最大の懸念は何ですか。

A:大きな危機に対応することができないという点だ。気候変動や脱工業化革命、人工知能(AI)、破壊的テクノロジー、パンデミックなど、山積する問題に立ち向かうには、世界の国々の協調が必要だ。しかし、実際には、そうした国々が敵対し合っているため、人類の未来にとって、はるかに危険な時代になりつつある。

その結果、大きなリスクを被るのは、政情が不安定な国だ。日本の経済社会はうまく機能しており、不安定とは無縁だ。革命も戦争も起こりそうにない。とはいえ、破壊的テクノロジーやパンデミック、グローバルな経済的遮断による影響は免れられない。