次に、2位に挙げた「グレイト・デカップリング(大分断)」だが、Gゼロ時代に始まった米中間の半導体やクラウドコンピューティング、5Gといった戦略的技術分野の脱グローバル化が、コロナ危機で製造業・サービス分野にも拡大する。グローバルな「ジャストインタイム」のサプライチェーンから、万が一に備えて国内で生産する「ジャストインケース」のサプライチェーンへの移行が進むだろう。

国際政治学者 イアン・ブレマー氏
国際政治学者 イアン・ブレマー氏

その結果、何が起こるか。それは、さらなる脱グローバル化とナショナリズム強化による輸出規制。そして、ベイルアウト(公的資金による救済)と引き換えに自国民を雇うことなどを企業に求める、融資条件の強化だ。こうしたことが分断に拍車をかける。

3位の米中関係だが、20年1月に発表したリポートでは、分断による関係の緊迫化に伴い、国家安全保障や自国の影響力・価値観をめぐる対立が顕在化し、経済制裁や輸出規制などが続くと書いた。コロナ危機をめぐる両国間の不信感も問題だ。トランプ政権は、「ウイルスが武漢の研究所から発生した」として中国を非難している。米議会の情報特別委員会が調査を行い、公聴会が開かれるだろう。米司法省と中国政府の応酬が続く。

このように、米大統領選や米中デカップリング、米中関係の緊迫化という3大リスクは、コロナ危機により、その緊急性が高まる。

コロナ拡大は習政権にどう影響するか

Q:中国は、20年第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)が前年同期比で6.8%減となりました。一党制の政権安定には経済の高成長が必須だといわれますが、習政権が不安定化するリスクはありますか。

A:いや、不安定化するとは思わない。中国経済が今回の危機を早くも脱したことで、むしろ国民の愛国心は高まっている。

初動については怒りや不満の声が多かったが、あくまでも武漢に限った話だ。北京や上海、広東省など、他の地域では大流行に至らなかった。米欧の危機対応のまずさが浮き彫りになる中、中国国民の間では、自国への誇りが高まっている。中国にとって、経済の立て直しは他国よりも容易なはずだ。

Q:あなたが日本経済新聞に寄稿した「世界新秩序への3つの潮流」(20年4月16日付)では、グローバルリーダーとしての役割から手を引くという米国の動きがコロナ危機で加速したと指摘されています。「Gゼロ」時代の流れが危機で顕在化し、脱グローバル化やナショナリズム、政治超大国としての中国の台頭という3つの潮流が大きな影響力を持つ、と。

A:まず、脱グローバル化だが、米国はテックや経済、軍事、外交など総合的な意味で、世界で唯一の超大国だ。しかし、もはや世界をリードしておらず、「世界の警察官」としての役割に二の足を踏んでいる。国際貿易の立役者やグローバルな価値の推進者としての役割も望んでいない。

一方、欧州は米国より脆弱で、エリア内の分断も深い。ブレグジット(英国の欧州連合離脱)の影響は言うまでもないが、コロナ危機でも、イタリアなど欧州南部の国がもっと支援を必要としているのに、それが得られるかどうかは不透明だ。ロシアは原油価格の急落にあえいでおり、米国を非難している。翻って中国は、そうした国々より、はるかにうまく危機を脱したが、米国の息がかかった機関を敬遠している。中国による発展途上国への緊急支援金や人道援助は限られたものになるだろう。こうした、もろもろの点を考えると、グローバルなリーダーシップの不在が浮き彫りになる。

また、経済格差や政治的なエスタブリッシュメント(既成勢力)、グローバル化への怒りがナショナリズムにつながる。10大リスクの箇所で述べたが、今後、脱グローバル化が進み、ナショナリズムが高まる。