世捨て人の楽しみは、安価な新書とCD

ふだんはあまり出歩きません。緊急事態宣言のせいではなく、もともと左足が悪いから、85歳の今は、ほとんどが家の中での生活です。

作家・詩人・翻訳家 三木 卓氏
作家・詩人・翻訳家 三木 卓氏

仕事をしていたころは、歌舞伎町だの銀座だの、いろいろとおもしろいところや不思議なところへ行きましたけれど、もうそういう場所ともとっくに縁が切れていますし、今の僕はさしずめ世捨て人ですね。

でも、世捨て人にも日々の楽しみはありますよ。一番の楽しみは、布団の上に仰向けに寝転んで本を読むことです。重い本だと長く支えていられないので、読むのは軽い本、つまり新書です。僕より若い学者さんが書いているものが新書に多いので、いろいろと教わることがあります。

例えば、僕の小学校で習った歴史は、戦時中でしたから、ひどく偏った内容でしたし、戦後の歴史もねじ曲げられたものです。それを信じ込まされて育ってきましたから、今になって「本当はこうだった」ということがわかる。これがたまらなく楽しいんです。

ほかに楽しみといえば音楽を聴くことですね。クラシックからポップス、歌謡曲まで何でも聴きます。僕が学生のころの昭和30年代初め、LP盤のレコードが1枚2300円。社会人の初任給が1万円くらいの時代でしたから、貧乏学生にはとても買えませんでした。

今は新書も安いし、CDも1000円もしないものがたくさんあります。ネットで雑誌や書籍も読めれば、音楽や映画も安価に楽しめます。収入が高くないという人でも、そういう廉価な方法で、楽しみながら教養を養う過ごし方もあるのではないでしょうか。