一方、都市開発では、東京・港区の東京ミッドタウンや中央区の日本橋再開発が、代表的な作品群だ。菰田はこう語る。

「ハードのスペックが高いというのは、必要条件で、十分条件ではない。ハードとセットになるソフトをどこまで入れ込めるか。だから、住む、働く、憩うという多機能を搭載し、一つの完結した街をつくっていく。もう一つは、開発案件の周辺におられる住民や地権者、事業者、ワーカーなどを含めたコミュニティを街全体で形成することです」

菰田は「日本経済全体にとって、代表的都市の国際競争力を高めていくことは喫緊の課題」という。森ビルとも共通する問題意識だ。菰田は日本橋を例に引く。

「日本が世界に自慢できることは、やはり歴史であり文化だと認識しています。日本橋の伝統を残し、甦らせながら、新しい価値をつくってきた。それが我々の街づくりにおける競争力の源泉です」グローバル化への対応では、特に中国の攻略を急ぐ。寧波にアウトレットモールを開業したほか、上海、天津で住宅分譲を進める。欧米の事業も加速させる予定で、来年度からは総合職全員にTOEICで730点の目標点数を設定する。

「この基準では私も不適格になってしまいますが、正直、我々の年代では、海外へ行くのが嫌なので不動産会社へ入ったという人も多かった。いまは会社として意思を示したことで、中国語も含めて、社員の学びへの意欲が高まっている」

現在、海外事業の営業利益は全体の約8%だが、これを20年までの早い時期に、2割にまで高めるのが目標だ。

実力社長だった岩沙弘道会長とは新入社員のときから上司・部下の関係。岩沙の姿を見て経営道を学んできた。その菰田に社長の役割を問うと、少し意外な答えが返ってきた。
「グループ全体の進むべき方向性を決め、それを示すことです。ただ、これだけ時代の流れが速いのでブレることもあると思う。だから間違ったと思ったら早めに方向転換する。そのとき躊躇なく改めるということが必要でしょうね」

デベロッパーという息の長いビジネスに取り組む粘りと柔軟性。これが菰田の持ち味のようである。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)