第1次安倍政権以来、改憲は全く進んでいない

改憲は、①改憲原案を衆参両院の3分の2以上の賛成で発議、②60日以後180日以内に国民投票、という2段階で進む。その間、短く見積もっても1年半から2年はかかる。

衆参の憲法審査会が全く動いていない今、もはや「20年施行」は事実上不可能な状況になってはいたが、問題提起した安倍氏が、正式に「残念ながら実現にいたっていない」と白旗をあげた政治的意味は大きい。安倍氏も無念だっただろう。

安倍氏と改憲は、切っても切り離せない。尊敬する祖父・岸信介氏は政界引退後も自主憲法制定に人生をささげたが、志半ばで他界した。その無念を自分が晴らそうという思いが安倍氏にはある。2006年、最初に首相となった時から改憲をかかげ、12年、首相に返り咲いてからも改憲を目指す決意を隠さなかった。

第2次安倍政権誕生後、衆参両院選挙や自民党総裁選では、ことごとく憲法改正問題が大争点となったが、いずれも安倍氏や彼が率いる自民党は勝利。改憲に向け、国民から一定の信を得たことになる。にもかかわらず、憲法改正はほとんど前に進まなかった。第1次安倍政権から計算すると14年。明らかに安倍氏の戦略ミスがあったのではないか。

「なぜ改憲したいのか」がいっこうに見えない

安倍氏が改憲を目指していることは誰も知っている。しかし、彼が憲法のどこを変えようとしているのか、というと曖昧になる。例えば、初めて首相の座についた2006年ごろは「美しい国」を掲げ、憲法全体を抜本的につくり直そうという大風呂敷を広げた。

2013年の参院選のころは、憲法の改正要件を定めた96条の改正を前面に出して「お試し改憲」と批判された。その後、憲法に自衛隊を明記する改正を最重視する考えを表明。そして、今はコロナ禍をテコに緊急事態条項を創設することに力点を入れつつある。このことは2月4日に配信した「新型コロナウイルスを改憲論議に利用する安倍政権のあざとさ」を参照していただきたい。とにかく、改正したい条文の優先順位がころころ変わって節操ないのだ。

安倍氏が改憲に意欲を燃やすのはわかるが、どういう理由で改憲をしたいのかわからない。これが国民の本音ではないか。「改憲した首相」として自分の名を歴史にとどめたいことはわかるが、改憲して日本の形をどうしたいのかがわからない、と言い換えた方がわかりやすいかもしれない。そういう姿勢が透けてみえるだけに、国民の理解も進まないのだろう。