なぜ利下げで株価は下がるのか。21世紀の経済学は、20世紀の経済学と逆さまになることが多いからだ。ボーダレス経済では資金が国境をまたいで、より多くのリターンが望めるところに移動する。このところEUと日本が実質金利ゼロの状態だから、比較的金利が高いアメリカに向かっていた。しかし、今回はFRBがゼロ金利に向かう動きを見せたために、資金が市場と為替から逃げてしまったのだ。

比較的リスクの少ない成熟国では、金利が高いほうが世界中からカネが集まってきて、市場も活況を呈する。私はこれを「ボーダレス経済の第1原則」と呼んでいる。

アメリカのクリントン政権期に、大統領とモニカ・ルインスキー嬢とのスキャンダルが発覚して弾劾騒動に発展したことがあった。当時、傍らにいたFRBのグリーンスパン議長(当時)は「インフレが怖い」と言いながら、金利をどんどん上げていった。

金利を上げれば世界中から投資資金が流れ込む

20世紀の経済学では、金利を上げることはインフレを抑制して景気の過熱を防ぐ効果があるとされていた。しかし、金利を上げた結果、世界中からアメリカに資金が集まって株式市場は空前の活況を呈し、クリントン大統領は弾劾を払いのけた。つまり、ボーダレス経済の第1原則は当時から観察されていたわけで、老獪なグリーンスパンは金利を上げれば世界中から投資資金が流れ込むことがわかっていたのだろう。

もう1つ、資金供給の面でもボーダレス経済には特有の現象が見られる。国内よりも有利なリターンが得られる投資先があれば、国境をまたいでカネは移動していく。供給された資金は国内にとどまらない。これがボーダレス経済の第2原則である。

いくら市中に資金をばらまいてジャブジャブにしても、国内にニーズがなければニーズのあるところにカネは流れる。これはキャリー(※)と言われる現象で、私はボーダレス経済の第2原則と呼んでいる。「低欲望社会」の日本は、世界に比べてもなお一層資金需要が乏しい。リーマンショックのときには、アイスランドが低金利の日本円を相当借りていたことが判明した。

当時のアイスランドは建築ブームで、そこに金利の低い日本の資金が流れ込んでいたのだ。しかし、リーマンショックの経済危機でアイスランド通貨は下落。一方、円は買われて超円高になり、借金が膨らんで返済不能に陥った。東南アジアの国々も金利が安い円をどんどん借りたが、円高でやはり返済に苦労している。

結果、為替に懲りた国が増えて借り手があまりいなくなってしまい、今は日銀が国債やETF(株)を必死に買い込んでいるわけだ。

※キャリー取引は、「キャリートレード」とも呼ばれ、金利の低い通貨で調達(借り入れ)した資金を、外国為替市場で金利の高い他の通貨に交換し、その高金利で運用して金利差収入等を稼ぐ取引(運用手法)のこと。