和田アキ子の答えは簡潔だった。

「人の話を聞くこと。若かった頃は、芸能界の先輩にいろいろ教えていただいた。ドラマで共演した森繁(久彌)のジイからは、『歌は語るもの。そして、セリフはうたうもの』と教わった。(美空)ひばりさんには怒られたことがある。私が舞台に上がる前にはいつも緊張してしまうんですと呟いたら、『アッコ、何言ってんだ。おまえはプロだろ。歌手が緊張したら客はどうするんだ。緊張なんかするんじゃない』。それから、舞台に立つ前にはひばりさんの言葉を思い出します。緊張しちゃいけないんだと自分に言い聞かせています。

今は若いスタッフの意見をよく聞いています。コンサートやテレビ出演の後には、必ずミーティングをやって、スタッフに『どやった?』と尋ねます。彼らには思ったことをそのまま言ってもらう。それに、この40年間、私は自分から、この歌をうたいたいと言ったことはありません。マネジャーやディレクターが選んできたものをそのままうたう。そう決めています」

(左)TBSの楽屋にて峰竜太氏、安東アナと打ち合わせ中。(右)和田さんが司会を務める「アッコにおまかせ!」は20年以上にわたる長寿番組。生放送前の“儀式”(右上)は本邦初公開。(写真提供:TBS「アッコにおまかせ!」)
(左)TBSの楽屋にて峰竜太氏、安東アナと打ち合わせ中。(右)和田さんが司会を務める「アッコにおまかせ!」は20年以上にわたる長寿番組。生放送前の“儀式”(右上)は本邦初公開。(写真提供:TBS「アッコにおまかせ!」)

和田アキ子はテレビで見ると、乱暴なキャラクターを演じているが、実際の彼女は姿勢を正し、的確な言葉を思い出しながら、ひとつひとつ質問に答える律儀な社会人である。そんな社会人としての先輩に、私はビジネスマンへのアドバイスをもらってきた。

「中堅のビジネスマンならば、自腹を切って若いやつにメシを食わすこと。しかもおいしいところ、高級なところへ連れていくこと。会社でえらくなるには才能も必要だけれど、下の人間の支持がいる。自分より年下の人間に支持されるには会社のなかで『人気者』にならなくちゃダメ。だから、自分の金で若い人におごればいい。

私らは人気商売です。人気は『人の気』と書く。そして、人の気ほどいい加減なものはない。あの人がいいと言っていたファンが次の日には、この人のほうがいい、となる。だから、大衆の人気を維持するなんてできません。せめて自分の周りの人に気を配るしかありません」

彼女の意見は具体的で的を射たアドバイスだと思う。

(尾関裕士=撮影)