歴史上最も成功した大学バスケットボールのコーチの中に、冒頭に述べたマキャベリの発した「恐怖」と「愛」、両極のリーダー像を持つ人物が2人いる。テキサス工科大学のボビー・ナイトとデューク大学のマイク・シャシェフスキー、通称コーチKだ。ナイトは恐れられるタイプで、コーチKは愛されるタイプだったが、2人とも選手の中に熱烈な信奉者を持っている。率直なコミュニケーションと親身な支援を基盤とするリーダーシップ・スタイルをとっているコーチK。その考えに基づいて『Leading with the Heart』という著書を出したほどだ。
それに対しナイトは、練習のとき選手の首を絞めるなど、彼の厳しい指導ぶりについては枚挙にいとまがないほど、「恐怖」型のコーチ生活を送ってきた。だが、そのようなしごきにもかかわらず、彼は、選手から途方もなく大きな忠誠心、そして親愛の念さえも勝ち得ている。
これはなぜだったのか。まず、テキサス工科大学の選手は、自分がどのような環境に入るのかを承知でチームに入ってきていた。加えて彼らは、ナイトの激しい気性は彼という人間の切り離せない一部であるが、一方で彼が選手のことを心から気にかけていることをよくわかっていたのだ。
これは、『君主論』から500年近く経った今でも、マキャベリから学ぶ教訓があることを示した1つの例である。力と脅しによるリーダーシップには確かにマイナス面があることは確かだ。最悪の場合、リーダーは、その地位を追われるだろう。現に、ナイトはその暴力的な行動のために一度、インディアナ大学のコーチの座を追われている。その後、すぐにテキサス工科大学に拾われたとはいえ、彼は、自らの専制的なスタイルを社会規範の変化に適応させることができなかったゆえに1度失敗した。
しかし、一方で穏やかなリーダーシップが有効ではない場合がある。その場合は、やはり恐怖による支配が必要となってくるだろう。
できる上司ほど、状況に合わせる
成功するリーダーは、今自らが置かれた状況から発せられるシグナルを読み取り、それに従って自分のスタイルを適応させるものだ。そして、彼らは同時に自分の適応限界値もよく心得ているのだ。
リーダーにとって、いわゆるストレッチ・アサインメント(現在の能力より少し上の能力が必要な任務)が、それまで気づいていなかった強みを表に引き出す機会になることもあるだろう。だが、その任務において、そのリーダーの適応力を超える形でのリーダーシップが必要な場合、結果は概して悲惨なものとなろう。