「取材を受けます」とは言えない事情

私もほぼフリーランスのような立場なので、日常的にコワーキングスペースを利用させてもらっている。探せば感染対策をきっちり行っているコワーキングスペースがあるかもしれないし、ここで安全性をしっかり伝えることができれば、利用者も安心してコワーキングスペースを利用できるはずだ。

そう思い、早速、知人が利用しているコワーキングスペースにメールで取材を申し込んでみた。しかし、3日たっても返事が来ない。普段であれば電話をかけて取材の催促をするのだが、今回だけは躊躇ちゅうちょしてしまった。

もしかしたら、取材されることを嫌がっているかもしれない。「快く取材をお受けします」とも言いづらいし、「取材をお断りします」といえば、今度は感染対策の不備を疑われてしまう。意図的にメールを返していないのか、それともメールを見落としているのか分からないが、電話をかけて取材の催促をするのは、相手のことを追い詰めることにもなってしまうかもしれない。結局、複数回利用したことがあるコワーキングスペースで情もあったので、取材は断念した。

「すみません、担当者が不在なんです」

次に私がよく利用している別のコワーキングスペースに取材を申し込むことにした。前回の反省を生かして、今度はメールではなく、電話で取材を申し込むことにした。対応してくれたのは可愛かわいらしい声の女性スタッフだった。

「コワーキングスペースを取材したいのですが」
「どのような取材内容でしょうか?」
「感染対策について記事を書きたいと思いまして」
「……すみません、今、担当者が不在なんです」

対応する口調に少し変化が出てきたのが分かった。見知らぬ人から電話がかかってきて、いきなり新型コロナウイルスの取材をしたいと言われれば、警戒して当たり前だ。慌てて取材交渉の戦略を切り替える。

「私、実は御社のコワーキングスペースをよく利用している者なんです。こういう時期だからこそ、応援したいという思いがありまして。それで取材を申し込んだんです」
「そうだったんですね」
「私、竹内謙礼と言いまして、本業はコンサルタントをしています。ネットで検索すればいろいろ情報が出てくるので、それで怪しい者ではないという確認が取れると思います」

取材許可の手応えを感じながら電話を切った。