公的債務残高はGDP比で日本の4分の1程度しかない
先の債務危機でも見られた現象だが、ドイツはその成功体験をほかの欧州諸国に押し付けがちである。とはいえ各国の労働市場は、それぞれの歴史に根付いた多様性を持つものであるため、かんたんには変わらない。さらに今のような非常事態では、そうした構造改革、つまり質的なアプローチよりも、失業給付の増額といった量的なアプローチが求められる。
財政均衡路線が一貫していたドイツでは、公的債務残高が2019年末時点でGDPの60%を下回っており、GDP比では日本の4分の1程度である。その信用力は世界的にも非常に高く、国債を発行しようと思えば買い手に困ることはまったくない。また現在はマイナス金利の環境にあるため、政府は国債を発行すれば金利収入を得ることさえあり得る。
これはドイツ経済にとって大きな強みだが、一方で別の意味での制約をドイツは課されている。確かに、ドイツの財政はドイツ国民の納税によって支えられている。しかし同時に、ドイツの経済はEUによって支えられている。こうした点から考えれば、ドイツは必然的に、ほかのEU諸国を支援する責務を持っていることになる。
にもかかわらず、納税者への説明責任を理由に、ドイツ以上の苦境に立っている南欧諸国への支援を渋ることは、やはり問題がある態度と言えるだろう。ドイツはドイツを守るための仕組みの整備が進んでいる分、傷が浅いとするならば、やはり欧州の盟主として他国をサポートする義務があるはずだが、この意識はどうも弱いようだ。
ドイツの雇用・所得対策のどこを見習うべきなのか
日本でも雇用調整助成金の特例措置が4月1日から実施されるが、これは休業手当などに対する厚生労働省からの補償であり、対象の従業員一人当たりの支給金額が8330円までに定められている。賃金の減少した分の6割(扶養対象の子供がいれば6.7割)を補償するドイツの制度と比べれば、見劣りしてしまう印象がある。
量的なアプローチ、つまり失業給付金を増額させるにしても、日本の財政は火の車だ。借金を借金で返す自転車操業状態にあるため、現金給付を行うにしても厳しい所得制限を設けなければ立ち行かないというのが実情と言える。それに、日銀に国債を買わせるにしても限界がある。一見規模が大きい日本の経済対策がパンチ不足に見えるのは当然だ。
ドイツの雇用・所得対策もまた万全とは言えない。とはいえ、見習うべきところは見習うべきだろう。雇用の流動性は重要だが、それは社会の安定が保たれるセーフティネットがあってこその話だ。それに雇用維持と同時に、まだ労働市場に参加してない若年層を労働市場にどう取り組んでいくかも、合わせて考えていく必要がある。
そう簡単にはいかないわけだが、今回のコロナショックを受けて、有事の際に雇用を維持するための制度作りが官民の垣根を超えて進むことを期待したい。