人工呼吸器のため大量の酸素を24時間態勢で送り込む特別な配管が必要

たとえば「中央配管方式による酸素供給」だ。人工呼吸器は大量の酸素を24時間態勢で使用するので、「酸素ボンベ」ではなく、水道のように「ツマミをひねれば絶え間なく酸素が流れる」という配管設備があることが望ましい。このため多くの病院では、病室内に設置された「バルブ」(写真参照)にアタッチメントを差し込むと、酸素を取り込める仕組みになっている。

写真左から順に「酸素配管口」「空気配管口」「吸引口」
撮影=筒井冨美
写真左から順に「酸素配管口」「空気配管口」「吸引口」

今回、この選手村マンションに滞在するのはコロナ感染者の軽症者が想定されているが、酸素投与が必要なレべルの患者に対応する場合、こうした中央配管を備えることはマストであるはずだ。

また、酸素だけでなく、「空気の中央配管」の設置も望ましい。患者の症状に合わせて酸素濃度を調節するためだ。人工呼吸器によっては駆動に圧縮空気が必要な機種もある。

さらに肺炎患者は痰などの分泌が多く、マメな吸引が必要となるので「吸引の中央配管」も必要不可欠である。

近頃、新型コロナ対策の「切り札」として、しばしばメディアで紹介されることが増えた人工呼吸器や膜型人工肺(ECMO=エクモ)は「病院用の電気設備」(写真の赤いコンセント)を使用することが原則である。雷などによる停電は患者生命にかかわるので、この電気設備は停電用のバックアップ電源を備えている(写真参照)。一般の分譲マンションには通常、こうした専門的な電気設備は備わっていない。

写真左から順に「医療費電源端末(停電バックアップあり)」「一般端末」
撮影=筒井冨美
写真左から順に「医療費電源端末(停電バックアップあり)」「一般端末」

寝たきりの患者を運べる巨大なエレベーターはマンションにはない

感染症患者向けの施設には、「病床」以外にも必要となるものは多い。

例えば、エレベーターや廊下は一定以上の広さがないといけない。なぜなら、人工呼吸器を必要とする重症肺炎患者はほぼ寝たきり状態で、ベッドに乗せたままで搬送することになる。そのため、それが完全に乗らないサイズのエレベーターや廊下では移動ができないのだ。

そもそも選手村は、一般住宅用に設計された建物だ。当然のことながら、酸素配管や医療用電気設備は設置されておらず、エレベーターもパラリンピック関係者の車椅子を乗せるのが限界だろう。そして、既存マンションに酸素や病院用エレベーターを後付けで設置するのは大変なコストと時間を要する。

また、人工呼吸器やECMO装着患者は、医師・看護師・臨床工学士による24時間態勢の監視が必要になる。マンションのように細かく区分けされた建物では、隅々までの監視が困難だ。

であれば、いっそのこと中国のようにコロナ患者向けに病院を新築するか、先ほどオープンした英国ナイチンゲール病院のようにイベントホールを改築して4000床の大病院に用途転換するほうが、現実的な選択肢となるのではないか。