施設名の公表が、クラスターの封じ込めに
だが、感染拡大防止という観点から見ると、病院名の公表が控えられたままでいいかは疑問が残る。
病院ではないが、施設名の公表が評価された例として、クラスター(感染者集団)が発生した大阪市のライブハウスが挙げられる。大阪府はコロナウイルス感染が確認されてすぐ、ライブハウスの店名を公表し、各地に散ったイベント参加者に注意喚起を行った。その結果、感染が判明した2月29日から20日後、3月19日には吉村洋文府知事によってライブハウスにかかわる感染拡大の収束宣言が出されるに至った。感染拡大防止の鍵はクラスターの封じ込めだ。ライブハウスのクラスターからは約80名の感染者を出していたが、もし公表がなければ、その80名から各地でさらなるクラスターが発生し、爆発的な感染が起こっていたかもしれない。
店名公表にはライブハウス側の理解と協力があったという。吉村知事はテレビ番組でコロナ終息後も風評被害などのリスクが考えられるなか、社会のために決断したライブハウスの行動を評価し、今後もフォローをしていきたいと述べている。
病院名だけが伏せられた、このままで良いのか
ライブハウスの件は店名を迅速に公表し周知したことで、さらなる感染拡大を防ぐことができたが、同じリスクは医療機関にも存在すると言える。病院も「各地から」「不特定多数の人間が集まる」という点ではライブハウスと同様ではないだろうか。東京都では台東区の永寿総合病院で入院患者と医療従事者が感染し、その後の調査で3月29日までに100人に迫る感染者が出るというメガクラスターが発生してしまった。
さらに病院ならではのリスクは、病院を訪れる人のなかに高齢者や基礎疾患を抱えている人が多いということだ。コロナウイルスに感染後の重症化の危険性も懸念される。
国民の立場から見れば、感染予防のためにはどんな些細な情報でも知りたいというものだろう。しかし、今あるルールでは病院名の公表は容易なものではなく、自治体の働きかけ、そして病院の理解と協力が必須だ。一部、自主的に公表している医療機関もあるが、国の統一基準がなく、またフォローがあるのかもわからないなかでは相当な覚悟がいる行動だと言えるだろう。
感染拡大防止のために本当に必要な情報は何なのか。国や自治体と病院側のさらなる連携、そして風評被害や差別を許さない国民のモラルが求められる。