山西省で見た現代のゴールドラッシュ
中国は世界最大の石炭産出国で、エネルギー不足を解消するため、急ピッチで石炭を増産している。同国の石炭生産の約4割を担うのが、北京から数百キロメートルの山西省だ。かつて冬場は、空から降りそそぐ煤煙で数メートルしか視界がきかなくなるといわれた土地だ。
省都の太原からは、主要な産炭地である大同や柳林などへ高速道路が延びており、石炭を満載したトラックが往きかっている。片側2~3車線のハイウェーはトラックからこぼれた石炭の粉で黒ずんでいる。道の左右には、黄土高原特有の丘陵地帯やトウモロコシ畑が広がり、広大な風景の中に、石炭を利用する発電所、製鉄所、コークス工場などが建っている。五輪を開催する北京に石炭を早く輸送するため、トラックは休憩時間も削って走り続け、助手席の人間はドアを開けて、走っている車の上から高速道路の上に立小便をしている。
今回、同省南西部、陝西省との境に近い柳林という産炭地を見てきた。ここではオランダ企業が炭鉱で発生するメタンガスを回収し、発電を行うCDMプロジェクトを実施している。産み出される排出権(CO2換算)は年間約32万トンというかなりの量である。山西省の金持ちの多くは、炭鉱経営者であると言われるほど、石炭価格の上昇の恩恵を受けている。その一方で中国の炭鉱の安全管理は不十分で、メタンガスの爆発や地下水の流入で、年間数千人が命を落としている。それでも食い詰めた人々は、都市部の大卒ホワイトカラーの数倍の給料を求めて炭鉱にやって来る。
柳林の街は、一種整然とした北京やウルムチの街とは様相を異にする。建物はバラック小屋から四角いビルまで形も高さも様々である。でこぼこの道路のあちらこちらに泥水が溜り、土煙を巻き上げながら、石炭を満載したトラックが数珠繋ぎになって走っていく。窰洞と呼ばれる、建物前部にアーチ型の造りを持った廃墟のようなレンガの平屋に人々が住み、家の前で洗濯をしたり、スイカを商ったり、カラオケ屋の女が客引きをしたりしている。コークス工場はフレアガスを燃やす真っ赤な炎を噴き上げ、パイプが複雑に絡み合った製鉄所は高い煙突から白煙を噴き上げている。混沌とした辺境の風景は、かつての筑豊を彷彿とさせる。
中国のCDMプロジェクトは、かつては北京、山東省、上海付近といった沿海地域が比較的多かった。しかし今では、そうしたアクセスの容易な場所での案件はあらかた取りつくされ、内蒙古、雲南省、甘粛省、新疆ウイグル自治区といった辺境に分け入らなくては獲得できない。
ある商社マンは、そうした地方で何時間も山道を車に揺られていくと、天山山脈の雪融け水が滔々と流れる谷あいの川があり、車も通れない山道ではロバを使って資材を運び、水力発電所を建設していると話してくれた。
また、N2OやHFC23のプロジェクトは、現在ではほとんどなくなり、二酸化炭素を発生させないクリーンエネルギー(水力、風力、太陽光発電等)や、メタンガス回収案件が中心になりつつある。