「空気がお金になる」

CDMプロジェクトは、アジア、アフリカ、中近東、中南米など世界中の中進国、発展途上国で行われているが、数が多いのは、中国、インド、ブラジルである。国連に登録されたCDMプロジェクトから生じる排出権量におけるシェアは中国が51.6パーセントと圧倒的に多く、2位がインド(14.1パーセント)、3位がブラジル(8.8パーセント)である。CDMが行われる国の特徴としては、経済規模があり、二酸化炭素排出権の削減余地が大きいことが必要なので、これら3ヶ国に案件が多いのは当然といえる。

山西省の炭鉱で働く労働者(上)と炭鉱(下)。
山西省の炭鉱で働く労働者(上)と炭鉱(下)。

個々のCDMプロジェクトから産み出される排出権(すなわちCER)はプロジェクトの規模や、対象となる温室効果ガスの種類によって異なる。CDMの対象となる温室効果ガスは6種類あり、それぞれの温室効果の強さは「地球温暖化係数」によって表される。すなわち二酸化炭素(CO2)は1倍、メタン(CH4)は21倍、N2O(亜酸化窒素)は310倍、フロン類のうちPFC(パーフルオロカーボン)14は6500倍、HFC23は1万1700倍、SF6(6フッ化硫黄)は2万3900倍となっている。したがって、HFC23の排出量を1トン削減すれば、二酸化炭素1万1700トンを削減したのと同じ排出権を獲得することができる。

これまで行われてきたCDMプロジェクトは、産み出される排出権の量が年間1万トンから30万トンくらいの規模のものが多い。排出権価格の動向に関する日本の代表的な気配値としては、国際協力銀行(JBIC)と(株)日本経済新聞デジタルメディアが毎週月曜日に発表している「日経・JBIC排出量取引参考気配」がある。それによると最近の価格は、二酸化炭素1トンあたり3500円程度である。したがって、排出権の量が1万トンから30万トンくらいのプロジェクトでは、年間に3500万円から10億5千万円の「余剰収入」が発生する。

プロジェクトによっては、日揮、大旺建設、丸紅が共同で行っている中国浙江省のフロン破壊プロジェクトのように、年間580万トン、金額にして203億円という大量の排出権が得られるプロジェクトもある。これは代替フロン工場で排出されるHFC23を回収・破壊するプロジェクトだが、HFC23の回収・破壊のための設備自体は大がかりなものではなく、プロジェクト実施に必要な資金は数億円程度といわれる。したがって、毎年のリターンは数千パーセントという「化け物」のように儲かるプロジェクトだ。これまで存在しなかった排出権によって突然巨額の金が儲かるようになり、中国人たちは「空から月餅が降ってくる」とか「空気がお金になる」と言っているという。