と言っても、文具の時点で細かなキャラクター設定やストーリーがあったわけではない。小説の元になる材料は、文具に描かれた女の子たちのイラストやポエムだけだった。

「ポエム」というのは、例えばこういうものだ。

どうしてだろう。みんなといた時はいっぱい話してたのに2人になると急にコトバがでなくなっちゃうんだ。

二人同じ場所でうまれたこと。二人同じ気持ちになれたこと。二人同じ道を歩けること。それが二人の幸せ。

『お話10コつめあわせ。』
写真提供=学研プラス
『お話10コつめあわせ。』
写真提供=学研プラス

こういった言葉と、女子の友だち同士や男女の恋人同士のイラスト――その数少ない素材から、編集部は物語を想像して作っていった。

恋や友情を「カジュアルで本音に近い感覚」で描く

マインドウェイブの文具は「恋」と「友」が2大テーマだ。小説の内容もこれを踏襲した。ただ小説で断然人気なのは「恋」の方だ。

企画を立ち上げた担当編集者が中学生の頃、少女向け小説の「コバルト文庫」(集英社)を読んでいた世代だったこともあり、「小学生向けでもカジュアルで本音に近い感覚を採り入れられないか?」という切り口で『一期一会』の小説版を作ろう、と決めた。

執筆は学研の編集者や社外のライターなどが担当し、従来の児童書を手がけてきたような小説家には頼まなかった。それは普通の小説とは構成が大きく異なるからだ。たとえば小説版『一期一会』シリーズの本文には、ページのめくりをまたいで続く文章がない。

左ページの最後の文章が「なんだよ、びっくりさせる作戦かよと、ニヤけながら顔をあげると……。」で終わり、ページをめくると「ケーキをかかえてたのはユリカ。きのう、転校してきたばかりのおじょうさまだ。」と始まる(『一期一会 ありがとうフィナーレ。』学研プラス、2014年、65p,66p)。

文と絵の葉一、ページめくりのタイミングを全ページにわたって調整していく構成のため、いわゆるプロ作家に文章を頼むよりも、編集者主導のほうがやりやすい、というわけだ。

「それまでの児童書は『文が続いて、ときどき参考程度に挿絵がある』ように見えるものが一般的で、文の途中でページをめくっていくものが多かったんです。でも『一期一会』では、見開きごとに、次のシーンが気になるようなところで文が終わるようにしています。ページをめくったら読者が聞きたいと思っていたセリフや見たかった絵が出てくる、といった『絵本』のような展開にこだわりました」(学研プラス 幼児・児童事業部 コンテンツ戦略室 北川美映氏)