東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長・教授・医学博士●<strong>富田剛司</strong>

東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長・教授・医学博士●富田剛司

ところで緑内障の治療は、失われた視野や視力を回復させることではなく、内障の進行を抑え、視野や視力の悪化を防ぐことを目的に行われる。つまり緑内障は一方通行の病気で回復は期待できない。

治療の方法について東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長の富田剛司教授が解説する。

「大きく分けて、目薬による薬物療法、外科手術、レーザー手術がありますが、治療の考え方はみな同じです。緑内障はいわゆる眼圧と視神経の耐性とのせめぎ合いで起こりますが、眼圧に対して視神経を強化する方法はありません。眼圧を下げることに絞って治療することが現時点では最善の方法です。幸い、眼圧を降下させることで大きな治療効果が得られますから、正常眼圧緑内障でも当然ながら眼圧を下げる治療を行います」

熊本大学大学院教授 熊本大学医学部附属病院副病院長●<strong>谷原秀信</strong>

熊本大学大学院教授 熊本大学医学部附属病院副病院長●谷原秀信

熊本大学大学院の谷原秀信教授は近年、目薬の薬効が高くなっていることをこう評価する。

「治療法はケースバイケースですが、基本は薬物療法。効果の高い目薬がいろいろ出てきたことで、薬物療法の選択肢が増えて治療効果が飛躍的に上がるようになりました。房水の排出を促すことで眼圧を下げる『プロスタグランジン関連薬』などの薬や、房水の産生を抑えることで眼圧を下げる『β遮断薬』や『炭酸脱水酵素阻害薬』などの薬があります。これらの薬は、緑内障の種類や進行の状態、眼圧の程度などに応じて選ばれます。1種類の薬で十分な効果が得られない場合には、複数の薬を併用することもあります。薬の種類が多くなると点眼の回数が増え、目薬をさし忘れたりすることも起こりやすくなります。さらに点眼後5分間は鼻涙管から目薬が鼻へ流れないために目を閉じて目頭を押さえ、複数の目薬をさすときは5分以上の間隔をあける必要があります。そうした患者さんの負担を軽減するために、最近では2種類の薬の成分を合わせた配合剤も用いられています」

緑内障の年代別有病率

緑内障の年代別有病率

配合剤は欧米では10年以上前から使用されていたが日本ではなかなか承認されなかった。しかし、厚生労働省が10年に承認したことで日本にも4月から6月の間に3種類の新しい配合剤が導入された。組み合わせ方はそれぞれ少し違うが、これまで使われていた成分を組み合わせたものだ。

例えば現在、配合点眼薬で米欧、アジアなど約90カ国で発売され、世界のみならず日本国内で最も多く使用されているのがβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合したコソプトだ。緑内障の治療薬としては非常によく効くということもあるが、コソプトの一番いい点は、房水産生抑制作用の成分を組み合わせているだけに、房水の排出を促すどのプロスタグランジン関連薬と組み合わせてもよく、安全性が高く治療の選択肢がいっぱいあることだという。いずれにしろ緑内障の治療薬は種類がたくさんあるが、よく眼圧が下がるものが結局は医療現場で生き残っているということだろう。

緑内障チェックリスト

緑内障チェックリスト

緑内障をもっと知ってもらおうと啓蒙活動に力を入れる患者団体の「緑内障フレンド・ネットワーク」の野田泰秀事務局長は配合剤について「うちの会としても配合剤の早い認可を厚労省に要望していました。2剤以上点眼している高齢者には、つけ忘れもないし便利です」と話す。そして失明に至らないためにも「緑内障で失った視神経は戻らないし、進行も完全には止められません。いずれ自分の命との競争になるんです。年齢が高くなれば有病率も高くなるわけですから、40歳になったら必ず年に1回は緑内障の検査を受けてください」と強く訴える。

早期発見、早期治療が病気の鉄則。40歳過ぎてものが見えにくくなったら「老眼かもしれない」と安易に眼鏡屋に直行せずに、一度眼科を受診し、痛みもなく、簡単にすむ眼圧や眼底、視野の検査をしてもらおう。

(矢木隆一=撮影)