市場は日銀の「本気度」を見つめている

日銀は、本気でマイナス金利を導入した場合、地方銀行など体力のない銀行の経営が成り立たなくなることから、「百害あって一利なしだ」と考えている幹部が少なくない。本気でマイナス金利政策を「深掘り」できるかどうかは微妙なのだ。欧州中央銀行などが行っているマイナス金利政策とはだいぶ様相が違う。

それでも米国がさらなる金融緩和に踏み出した場合は、日銀も「次の一手」を温存しておく必要があったということだろう。場合によっては日銀もマイナス金利部分に手をつけざるを得なくなるだろう。だがそれが表面的なものなのか、本気でマイナス金利に踏み込んでいくものなのか、現状ではわからない。もちろん市場は日銀の「本気度」を注視しているわけだ。

企業の議決権が「公的機関」に握られている

マイナス金利の代わりに日銀が好んで使うのがETFの買い入れだ。すでにETF購入残高は30兆円近くに達するとみられる。上場企業の株式を組み込んだETF購入によって、すでに東証上場企業の5割で日銀が上位10位以内の「大株主」になっているとされる。

年金の資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と肩を並べており、日銀やGPIFが事実上の筆頭株主になっている企業も少なくない。今後、日銀がETFの購入を倍増させれば、さらに日銀とGPIFの持ち株比率が上昇する可能性が高い。民間企業の筆頭株主が中央銀行と政府機関という歪んだ資本市場になっているのだ。

日銀が実質的に保有する民間企業の株式の議決権は、ETFを運用する金融機関によって行使される。日銀は「議決権行使の指針」を公表しており、運用の受託金融機関は、「本行の経済的利益の増大を目的として議決権を行使するものとする」とされ、それ以外の目的での議決権行使はしてはならないことになっている。また、「株主の利益を最大にするような企業経営が行われるよう議決権を行使するものとする」とも定められており、日銀は直接ではないものの、「物言う株主」になっているわけだ。GPIFも同様で、企業の議決権が公的機関に握られる形になっている。

だが、日本企業の経営を巡る不祥事が相次いでいる中で、コーポレートガバナンスのあり方が問われ、株主総会などでの株主提案が増えている。そんな中で、日銀やGPIFの議決権行使がキャスティングボートを握るケースが増えているのだ。

株式市場のあり方で見ても、株価の下落時に、せっせと日銀とGPIFが買い支える、何とも歪んだ構造が定着しているのだ。この歪みはかねてから指摘されてきたが、新型コロナの蔓延という「非常時」ということで、改善されるどころか、さらに深みにはまっていくことになった。

なお日銀の黒田総裁は3月18日の参議院財政金融委員会で、日銀の保有するETFについて、「現時点での日経平均株価を基に試算すると、含み損は2兆~3兆円になる」と述べている。