「WeWork」などシェアオフィスには目もくれない

撮影=和田佳久

──ビル開発以外にITベンチャー向けに採った戦略はありますか。

ITベンチャーとのリレーション強化には注力してきました。それまでビル営業部のチームは大企業向けと中小企業向けの2班体制でしたが、2016年からは主にベンチャー企業をターゲットとした営業チームを立ち上げました。それ以前からも2013年から大企業とベンチャーのマッチングイベント「出張モーニングピッチ」、2015年からは大企業とベンチャー企業との交流、支援イベント「新宿サミット」を定期的に開催しています。さらに2018年からは三井住友銀行と共同で、大企業がベンチャーにラブコールを送る「リバースピッチ」を始めました。そのほか、ベンチャーキャピタルなどの金融機関が協賛するベンチャー向けのイベントにも積極的に協賛しています。

──その目的は?

もちろん最終的な目的はテナント誘致です。我々は、数年で従業員100名前後に急成長するようなスタートアップに入居していただくことを目指して、有望な小規模ベンチャーとのつながりを積極的につくっています。

──最近は「WeWork(ウィーワーク)」などのシェアオフィスが話題です。住友不動産はシェアオフィス事業に積極的ではありませんが、なぜですか。

時間や日単位でスペースを貸すシェアオフィスではビル運営が安定しないからです。シェアオフィスは話題を集めてはいますが、我々の推計だと現在の市場規模は首都圏で5~6万坪程度です。われわれの大型オフィスビル一棟分ですので、そこに年単位で貸し出すほうが効率的です。我々はいっときの流行に左右されず賃貸事業の王道を突き進んでいくというのが基本路線です。

わずか一棟からのスタートでオフィスビル東京ナンバー1に

──現在、住友不動産は都内に230棟超を運営し、「東京のオフィスビル、ナンバーワン」と謳っています。どのような戦略で、そうだけ多数のビルを保有することになったのでしょうか。

当社は他社のように都内に多数の土地を持っていたわけではありません。財閥解体で1949年に事業を開始したとき、東京に保有していたビルはわずか一棟でした。そこからスタートしたため、特定のエリアに偏らず、オフィス立地の可能性を秘めていると判断すればどんなエリアでも積極果敢に用地を取得し、大中小とあらゆる規模、価格帯のオフィスビルを建設してきました。

その結果、入居企業からどのような要望を受けても対応できるという「東京のオフィスビル、ナンバーワン」というラインナップができあがりました。当社のトップも常々「我々はビルの百貨店だ」と言っています。現在、ビル営業部は大企業チーム、ベンチャーチーム、その他チームと3つにわかれています。オフィスビル数の割合は6(大):3(中):1(小)です。