「私は部長時代に、全社的な業務改革プロジェクトを率いたことがあります。もう10年以上前ですが、当時は代理店がお客様のもとを一軒ずつ回って保険料を手集金していました。しかも集金したお金が帳簿と合っているか、そのチェックに膨大な労力がかかっていた。これではあまりに非効率です。そこで保険料の受領をすべて口座振替やクレジットカード払いにするキャッシュレス化を進めることにしました」

ところが、社内や代理店から上がったのは猛反対の声だった。

自分が悪者になってでもプロジェクトをやり抜く

「当時は他社も手集金が大半でしたから、『うちだけがキャッシュレスにしたら、お客様が他社に流れるじゃないか』『毎月お客様のところへ集金に行くから、接点が増えて次の契約獲得につながるのだ』といった声ばかりで、とにかく抵抗がすごかった。でも、足で回って集金したり、帳簿をチェックする作業自体は、お客様に何の価値も生み出しません。だからそんな作業は減らして、コンサルティングなどのお客様に価値を提供する仕事をやったほうがいいはずだ。私はそう考えて、自分が悪者になってでもプロジェクトをやり抜くと決めました」

そこで広瀬氏は、海外の先進事例を紹介しながらキャッシュレス化のイメージを具体的に伝えるなど、このプロジェクトが自社や顧客にどんなメリットがあるのかを丁寧に説明して回った。さらにはキャッシュレスでしか運用できない商品を開発し、手集金から脱却せざるをえない状況をつくり上げていったという。

「その結果、業務は非常にシンプルになり、最終的には社内や代理店からも『キャッシュレス化してよかった』との声を多く頂きました。自分を信じてぶれずにやり抜いたのは、やはり正しかった。サラリーマン人生のいくつかの局面で、同様に周囲の反対を受けながら従来のやり方を変えてきた経験がありますが、そのたびに道三と自分を照らし合わせてきた気がします」

損保会社の社長として、戦国武将たちに自分たちのミッションを重ねることも多い。

「戦国武将は自分の領地を守るために、治水工事に力を入れました。明智光秀は福知山城の建設に伴って大規模な堤防を築いていますし、武田信玄も『信玄堤』と呼ばれる河川堤を造りました。現在の日本でも、災害に強い国づくりが求められている。そして保険会社にとって、災害からの復旧・復興支援は大きな使命です」

そのために、新たな施策も次々と打ち出している。最近では、大規模水害の発生時に被災地を人工衛星で撮影し、それをAIで分析して被害の範囲や浸水の高さを数日で把握できるシステムを導入。迅速な保険金の支払いが可能になった。

「戦国武将たちは新しい刀や鉄砲などの技術を積極的に取り入れ、徹底的に使い倒して成果を出しました。我々もデジタルやAIなどの新しいテクノロジーを活用し、お客様に価値を提供し続けていきたいと思います」

(構成=塚田有香)
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