シダックス時代の後悔

オレはロッテで1年間、カネさんの下でプレーしたのだが、ベンチで言っていることはいつも同じだった。「下で投げろ、下で投げろ」って。もちろんアンダースローにしろっていう意味ではなくて、ちゃんと脚を使って投げろってことなんだよ。まぁ、カネさんの投げ方自体は、あまり下半身使ってない投げ方に見えたけど……。

ほかにも、昔のプロ野球にはすごい投手がいっぱいいたよ。130試合中70試合以上登板するとかね。もうカネさんの後継者は生まれないでしょう。無理だよ。

でも、フォームがぐちゃぐちゃだと、肩を壊す。だからこそ大切なのは、監督・コーチが「理想のフォーム」をしっかり熟知しておくこと。投げているピッチャーのどこを直せばいいか、どこを大事にさせるか。つまり、投げるのは腕なんだけど、カネさんが言うように脚で投げさせろということだ。

ただね、たしかに甲子園を初戦から決勝まで1人で投げ切るというのはちょっと無理があるわね。だからこそ、柱となる投手を2、3人つくる、それも監督の仕事なんだよ。

おれもアマチュア野球の監督をしたことがある。社会人野球のシダックスの監督時代のこと、都市対抗野球大会の決勝でな、エースだった野間口(貴彦、元巨人)は疲れていた。しかしオレは心配性なもんで、控えの武田(勝、元日ハム)に代えようとは思わなかったんだ。だから野間口に投げさせちゃって、負けてしまった。決勝戦まで行くと、そもそも1人で投げ切ろうというのは、ちょっと無理だよ。

たしかに、根性ある投手に「まだ投げられるか」と聞くと、ヘトヘトでも「投げます」と言ってくる。逆に、岩隈(久志、現巨人)なんかは楽天時代、すぐ「無理して投げて肩壊したら、誰が面倒見てくれるんですか」って登板回避していた。まぁ彼は彼で、そんな考えをしとったら駄目だ、エースなのに。話は戻るがピッチャーが疲れているかは、キャッチャーのミットを見ればわかる。ボールの回転数が落ちるとキャッチャーは受けたときミットが下がる。ミットは嘘をつかない。

それがわかっていても投げさせてしまうのは、もはや監督の資質の問題。名声のためか、金のためか、「勝ちたい、勝ちたい」という意欲が強すぎる。選手のコンディションとか考えずに自己中心で監督をやるから、選手がつぶれるんだよ。

そもそも球数制限というナンセンスなルールをつくった高野連がプロ経験者を寄せ付けない、あれがよくわからない。高野連は「高校野球は教育だから」と言う。プロ野球選手に本当に教育はできないのか、ただかき回されたくないからじゃないのかね。

(構成=プレジデント編集部 撮影=村上庄吾)
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