2008年度末の公債残高は550兆円を超え、国民1人当たりに換算すると433万円に達する見通しだ。政府紙幣には返済の義務がない。国債を発行すれば国の借金になるが、政府紙幣なら利払いも償還も不要である。国債の償還にあてて日本の財政を健全化させることも可能だ。

増え続ける国の借金

増え続ける国の借金

たしかに先進国の中でも屈指の借金大国である現状は憂うべきであり、私も問題視している。しかし今のところ私は、円に対する信頼は薄らいではいないと思う。お金の価値の底辺にあるのは国民の労働力であり、それは今も衰えていないと考えるからだ。大学で若い学生に対峙しても、能力の高さを感じることが多い。

政府紙幣を国民に配り、消費を喚起するという案もある。緩やかなインフレを誘導することで、雇用を確保するにも有効という。しかし、物が余ればありがたみがなくなるように、通貨の流通量が増えれば、お金の価値は下がる。ケインズなどは、人間の欲望ゆえ、何でも買えるお金自体を好んで集める、と考えている。

1杯目のビールは旨いが10杯目はそうでもないといった現象を「限界効用の逓減」という。しかし、お金についてはいくらあってもよく、あればあるほど、気が大きくなって使ってしまう。

もし政府紙幣の発行で財源ができても、それをどう活用するのか。政府紙幣を議論する際には、何に使うのかというビジョンも描かれなければならない。

そもそもお金は紙切れにすぎない。ではお金とはなにか。次回お話しする。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)