ブランド物を持っている=協調する価値がある
しかしながら、これまで紹介したいくつかの実験は、ブランド品の消費によってより相手と協調する結果を生むものばかりですから、自分を相手に対してできるだけ優位に持っていこうという動機に着目して強調するこうした理論を適用しようとしても、かなり説明に無理が生じてしまうと言わざるを得ません。
しかしここで「社会的選択」という概念を導入すると、この現象をうまく説明できる可能性があります。社会的選択というのは、競争でなく協調するという戦略をとる場合、協調する相手をどう選ぶのか、その選び方のことです。
「ブランドのロゴつきのものを身に着けている」ということは、その人物がすでに一定の社会経済的地位を手に入れているというサインです。つまり脳は、ブランドのロゴという社会経済的地位の高さを示すサインを見て、「互恵関係を築けば利益の増大が見込める」と判断し、その相手を「社会的パートナーとしての価値が高い」と読み替えてより多くの投資をする、と解釈することができます。
あとで説明しますが、ブランドは、強い感情と結びついた記憶を呼び起こすことで、その商品やそれにまつわる経験に価値を付与します。
脳はブランドと味を別々に処理している
けれども、ブランドは脳ではどのように認知されているのでしょうか?
ブランドがブランドになるには、何が必要なのでしょうか?
有名な実験に、「ペプシチャレンジ」というブランドが脳に与える影響を調べた研究があります。コカ・コーラとペプシコーラを比較し、ブランドについての知識が味や選好を変容させるということで話題になった、広く知られている古典的な研究です。
これを脳科学的に検証しようという研究が、アメリカの脳科学者モンタギューらによって行われています。
実験ではまず、ペプシコーラとコカ・コーラを被験者に飲んでもらい、味の好みとブランドの好みが一致するかどうかを調べました。その結果、自分が好きだと思っているブランドと、ブラインドテストで調べた味の好みはそれほど一致するわけではない、ということがわかりました。
つまり、コカ・コーラ好きだと感じて公言していても、ラベルを見せずに中身だけ飲ませるとペプシコーラを選ぶ、という人がそれなりにいた、ということになります。
次に研究グループは、被験者にコカ・コーラとペプシコーラのそれぞれをブランド名なしで飲んでもらい、その最中の脳の活動をスキャンしました。主観的な快楽を感じるときに活動すると考えられている脳機能領域は腹内側前頭前皮質ですが、この部分の活動は、被験者があらかじめ報告した自分のブランドの好みとはあまり一致しませんでした。ブランドと味を、脳はどうも別々に処理しているようです。
このデータをもう少し掘り下げるために、ブランド名がわかっている状態で被験者にそれぞれを飲んでもらって、そのときの脳をスキャンしました。すると、コカ・コーラを好きだと答えた人がコカ・コーラと知って飲むときには、記憶・情動の回路が活性化していたのです。