“騒音”が不動産価格に与える影響は決まっていない

これによる懸念は大きく2つだ。まずは「旅客機からの落下物」。人口密集地帯である都心部に機体の一部などが落下すれば、その影響は計り知れない。国交省は「各エアラインには注意喚起を促す」としているものの、現実に飛行機から部品が落ちてきたといった実例は、ある。

もう1つは「騒音」。一般に、線路や高速道路・工場など騒音や振動・臭いを発するいわゆる「嫌悪施設」の影響を受ける不動産は、その価値が一定程度下落する。例えば閑静な住宅街の真ん中にいきなり騒音を放つ工場ができれば、その影響は甚大だろう。だからこそ都市計画法ではその用途を主に「商業系」「工業系」「住宅系」の3つに分類し、土地利用を制限している。

ところが今回のように、上空からの飛行機騒音や落下物の可能性は、都市計画には織り込まれていない。さらに、新空路の下には、閑静な高級住宅街や高級タワーマンションが多数存在する。

一般論として「ゴミ焼却施設」や「下水処理場」「葬儀場」「火葬場」「刑務所」「火薬類の貯蔵所」「危険物を取り扱ったり悪臭・騒音・震動などを発生させたりする工場」「高圧線鉄塔」「墓地」「ガソリンスタンド」などが嫌悪施設に該当するとされるが、明確な定義はない。不動産取引を規定する「宅地建物取引業法」では、「相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」に関して説明義務を課しているだけだ。

したがって、こうした嫌悪施設から具体的に何メートルの距離にあった場合、どの程度の騒音の場合に、どの程度資産価格に影響があるといった基準もなく、どの程度の状況なら説明するかといったさじ加減は、不動産各社にゆだねられているのが実情だ。

マンション40階なら120メートル分騒音に近づく

今回のケースでは、駅周辺や繁華街など商業系地域で、従前から一定の騒音が発生している地域のみならず、松濤・青山・広尾・代官山・白金・御殿山といった、都心を代表する高級住宅街でこうした騒音が毎日発生する。またタワーマンションは「眺望が良い」といった観点から、一般に上階に行けば行くほど資産価格が高い。ところが、上空から騒音が発せられるとなると、話は変わってくる。1Fあたりの高さが3メートルと換算すると、30Fは90メートル、40Fなら120メートル分、音源に近づく。港区には47F建てのタワーマンションもある。

具体的にどのくらいうるさくなるか。国交省の想定では、渋谷駅周辺が高度600mで最大74dB(デシベル)、五反田・品川駅周辺が高度450mで76dB、大井町駅周辺は高度300mで80dBだ。70dBといえば、「電車の車内」「掃除機の音」「騒々しい事務所の中」と等しい。80dBでは「地下鉄の車内」「ボウリング場」「交通量の多い道路」「機械工場の音」と同等であり会話がかき消されるほどの騒音だ。