安倍首相には危機管理能力が欠如している

中国人旅行者が多い東京都は20年1月24日に危機管理対策会議を開き、大阪府も同日に対策本部を設置していたが、政府が対策本部を立ち上げたのは武漢市から29日に帰国した3人に陽性反応が確認された後の30日だ。一連の甘い対応には、安倍政権の支持層からも「安倍首相には危機管理能力が欠如している」などと厳しい声が相次いでいる。

安倍政権は首相官邸が危機管理を強力に担ってきたが、今回は官邸内に温度差があり機能しているとは言えず、感染症対策の「指揮官」である加藤勝信厚生労働相も一歩前に出た対応をしているとは言い難い。その結果、省庁間や政府・与党間の調整が思うようにいかず、「指定感染症」の政令施行日を急遽前倒ししたり、チャーター機の搭乗者負担方針を土壇場で撤回したりする迷走ぶりを露呈している。

こうした稚拙さの背景には何があるのか。首相官邸を取材する全国紙政治部の記者はこう声をひそめる。「安倍首相と菅義偉官房長官の意思疎通がうまくいかなくなっていることが要因の1つではないか」。解説によれば、危機管理の要である菅官房長官は、先の内閣改造で自らに近い菅原一秀経済産業相、河井克行法務相(いずれも当時)を入閣させたが公職選挙法違反疑惑で2人とも失脚。まだ疑惑に対する説明らしい説明もさせられず、菅氏の側近として力を蓄えた和泉洋人首相補佐官も女性問題が浮上し批判されている。

安倍首相は相次ぐ失態にいら立っているとされ、官邸関係者からは「19年の人事で生じた亀裂は残り、今政権内には『チーム安倍』と『チーム菅』の2つがある」との声が漏れる。安倍首相が公的行事「桜を見る会」に後援会関係者を多く招いていた問題などでも連日のように記者会見で批判の矢面に立たされている菅氏は「もう官房長官の職に辟易しているようだ」(自民党中堅)と見る向きもあるが、別の自民党担当記者は「もしも官房長官を外れたら『無役』になるだろう」と語る。それだけ政権の「屋台骨」である菅氏と、「チーム安倍」の間には深い溝ができているようだ。「桜を見る会」をめぐるチグハグな対応でも見て取れる。

安倍首相の自民党総裁任期満了が1年半後に迫り、岸田文雄自民党政調会長への「禅譲」を視野に入れる首相サイドと、それ以外の選択肢を目指す菅官房長官による「ポスト安倍」をにらんだ綱引きも激化しており、「安倍―菅」の二枚看板で築いてきた超長期政権にも脆弱性があらわれてきている。今政権がなすべきことは何か。ある民放政治記者の1人はこう苦言を呈した。「政局は別にして、くれぐれも国民の生命を脅かすような脅威の前には団結してほしいものだ」。

(写真=時事通信フォト)
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