よく知られている研究で、結婚の前後で幸福度はどう変わるかという調査データがある。幸福度は結婚のタイミングで一番上がり、そのあと下がっていく。それでは、幸福度をもっと高めるためには、何度も結婚を繰り返せばいいのか。別の例でいえば、ギャンブルをどんどん合法化すれば、一時的に幸福感は上がるかもしれない。しかしそれは、本当の意味の幸福とはいえないだろう。

結婚したばかりのときが人は最も幸福か?
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結婚したばかりのときが人は最も幸福か?

私は幸福度とは、病気の診断でいえば、問診に使えるツールのようなものとイメージしている。このツールは国全体が健康かどうかを調べるときに有効である。

例えば、GDPが伸びていても幸福度の平均値が下がっている場合、その社会に何か問題や異変が起きている可能性がある。

背景に失業率の高まりがあるかもしれないし、同時に自殺率も高くなっているかもしれない。その他の要因もあるだろう。ところが、そうした様々なデータが出揃うのを待って、政府が対策をとるには、現代社会の変化はスピードが速すぎる。

しかし幸福度という指標であれば、いまではインターネットを使った簡単なアンケートで得ることができる。つまり、簡単に問診ができる。その結果、幸福度がマイナスの方向を示した場合には、様々な社会事象を調査して、分析を急ぎ、早めの対策をとることができるのである。

さらに幸福の経済学は、これからの社会のありかたについて議論する材料も提供する。すでに日本は「格差社会」に突入したといわれるが、今後の政策として、格差を残したままで全体の所得の底上げを目指すのか、それとも格差を小さくすることを目指すのか。その方向性を議論することも重要な役割であろう。