韓国事業を重視してきたファーストリテイリング

ファーストリテイリングは、早くから海外での収益力強化を重視してきた。その目標は、「ZARA(ザラ)」ブランドを展開するスペインのインディテックスやスウェーデンのH&Mなど、世界的なアパレル大手企業との競争に勝ち残るためだ。その中で、ファーストリテイリングは、韓国事業を重視し、育ててきた。それだけに、日韓関係の悪化が同社全体の業績や今後の事業展開などに与える影響は軽視できない。

2001年、ファーストリテイリングは英ロンドンに初めての海外店舗を設けた。それを皮切りに同社は海外戦略の強化に取り組み、2002年には中国に進出した。さらに2005年、同社はアジア地域での収益力を引き上げるために、大手財閥企業であるロッテと組んで韓国に進出した。その後、ファーストリテイリングは、ほぼ一貫して韓国事業を強化してきた。

それは、店舗数の推移から確認できる。2006年8月末の時点で、韓国におけるユニクロの店舗数は10だった。その後、出店と退店を重ねつつ、ユニクロの店舗数は右肩上がりで増加した。2019年末でユニクロの韓国における店舗数は186に達し、中国に次ぐ重要な市場に位置づけられる。また、2018年7月にはソウルに“GU”ブランドの第1号店が開設され、オンラインストアやアプリの提供も開始された。

文在寅が日本の輸出手続き厳格化を一方的に非難

こうした取り組みが成果を結び、2018年8月期、韓国事業の売り上げは約1400億円に達し、重要な収益獲得の柱に成長した。さらに、2019年8月期のファーストリテイリングの決算では、EC(電子商取引)ビジネスの拡大などに支えられ、海外事業全体の営業利益が国内を上回った。

このような経緯からも、ファーストリテイリングにとって韓国事業は中国事業と並んで海外の収益基盤を強化し、持続的な成長を目指すために欠かせない要素であることがわかるだろう。そのうえで、同社は韓国事業などから得られた経営資源を、ベトナムなどの東南アジアやインドなど長期的な成長が見込まれる市場に再配分し、さらなる成長を目指そうとしてきた。

しかし、昨年7月以降、急速に韓国におけるファーストリテイリングの収益が落ち込んだ。大きな影響を与えたのが、わが国政府が、フッ化水素など半導体材料の輸出手続きに関して韓国を優遇対象国から除外し、輸出管理の手続きを厳格化したことだ。

サムスン電子をはじめ、韓国の半導体産業はわが国が供給する材料や半導体製造装置、さらには人材、資金に依存してきた側面が大きい。加えて、半導体産業は韓国の輸出の20%程度を占める経済の屋台骨だ。文在寅大統領はわが国の輸出手続きの厳格化が自国経済だけでなく世界に負の影響を与えると、一段と強く、かつ一方的に非難しはじめた。