トランプ政権の発足後、両国間の関係は悪化
オバマ前政権下、米国とイランの関係が改善に向かうとの兆しが見えはじめた時期があった。しかし、トランプ政権の発足後、両国間の関係は悪化に転じている。
2015年7月、オバマ前大統領は、外交交渉を通してイランに核開発の制限を受け入れさせ、イランは米英独仏中ロの6カ国と核合意を結んだ。核開発の抑制と引き換えにイランは制裁の緩和を取りつけた。国際政治の専門家や市場参加者の間では、イラン核合意は、中東の地政学リスクを低下させる重要な取り決めだったとの見方が多い。
欧州のエネルギー、自動車企業などはイランの潜在的な需要の取り込みを目指し、イラン政府との交渉を進めた。穏健派のロウハニ政権も、徐々に欧米からの直接投資を受け入れる体制を整えた。イランにとって、外資を誘致して工業化をすすめ、経済の成長基盤を強化することはテロの温床をなくし、社会の安定を目指すために重要だったと考えられる。
親イスラエル票の確保を狙った
しかし、トランプ大統領は、中東での影響力拡大を目指しイランへの強硬姿勢を鮮明にした。とくに、2018年5月にトランプ政権がイランとの核合意から一方的に離脱した影響は大きい。それにより、オバマ政権から一転して米国がイランに強硬姿勢をとり、親イスラエルの考えを重視することが明確になった。その主要な理由の一つとして、同氏にとって重要な支持基盤の一つであるキリスト教福音派からの支持を取り込む狙いがある。
2019年の年末が近づくなか、大統領再選を目指すトランプ氏は無視できない世論の変化に直面した。11月後半、米国の一部の世論調査では“ウクライナ疑惑”をめぐるトランプ大統領の弾劾への賛成割合が約50%に達した。下院でトランプ大統領を弾劾訴追する決議案が可決された後、福音派の大手誌がトランプ大統領を批判する社説を掲載した。トランプ大統領はこの状況に危機感を持っただろう。
さらに、昨年末、イラクの米大使館が群衆に襲撃された。米国政府は、その背後にイランの関与があったと主張している。トランプ氏は親イスラエル票の確保を狙って、イランへの強硬姿勢を強め、ソレイマニ司令官の殺害につながったものとみられる。